2020年11月27日

新型コロナに吸入ステロイド剤は有効か? COPDと喘息の場合

新型コロナに吸入ステロイド剤は有効か?
 COPDと喘息の場合
 
Risk of COVID-19-related death among patients
with chronic obstructive pulmonary disease or
asthma prescribed inhaled corticosteroids
 


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 新型コロナが世界的に流行し始めた頃に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喘息の基礎疾患を有する人のリスクが懸念されました。しかし意外にも、それらの人は新型コロナに罹患せず重症化も低率でした。
この事から、両疾患に使用されている吸入ステロイドが炎症を抑制している可能性が推測されました。
現に日本でも、吸入ステロイド剤のオルベスコの購入に規制がかかるほどの注目度でした。

 今回雑誌lancetに、COPDと喘息の患者さんが吸入ステロイドを使用していると、新型コロナでの死亡率が実際に低下しているかを検証したメタ解析の論文が載っていました。



纏めますと

1) 英国を中心として、プライマリーケアの電子記録から統計しています。
   2020年3月1日から5月6日までを集計しています。
   COPD患者に関しては、35歳以上、喫煙の経歴(現在または過去)を有する、吸入ステロイド剤か
   長時間作用型気管支拡張剤(LABA+LAMA)もしくは両方の併用を、インデックス日時(3月1日)
   の4か月以内に使用していることが条件です。
   喘息患者に関しては、18歳以上、インデックス日時の3年以内に喘息の診断を受けている、吸入
   ステロイド剤もしくは短期作用型気管支拡張剤(SABA)を、インデックス日時の4か月以内に使用
   していることが条件です。
   比較した要件は、COPDでは吸入ステロイド剤とLABA+LAMAです。
   喘息では吸入ステロイド剤の容量が低、中等、高の3段階とSABAを比較検討しています。

2) インデックス日時の4か月前に治療されているCOPD 148,557名と、喘息 818,490名が対象です。
   新型コロナ関連の死亡を比較しています。
   COPD患者の吸入ステロイド剤での危険率は、1.39です。
   喘息患者では吸入ステロイド剤の危険率は高用量ステロイドで1.55ですが、低用量及び中用量では
   SABAと比較して危険率はほぼ同じでした。
   ただし注意が必要な点は、絶対的死亡率のリスクは極めて低く、COPDの吸入ステロイド剤では
   0.09%高いだけで、喘息の場合は高用量の吸入ステロイド剤でも0.03%の増加です。




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3) 考察 
   交絡因子(confounder)を考えなくても、当然ながら吸入ステロイド剤を使用する患者は、COPD
   でも喘息でも重症例が多いので、結果的にはそれだけ新型コロナにおける死亡率は上がると推測
   されます。しかも新型コロナでない場合に、吸入ステロイド剤投与が短期的に死亡率を上げるとは
   考えられないとしています。
   未知の交絡因子が吸入ステロイド剤の有害性に関与しているかもしれませんし、吸入ステロイド剤
   の抗炎症作用が、新型コロナにおいて全く認められないとも断言できません。
   しかし本研究では、以前の研究と比べてCOPDと喘息という2つの要因の疾患を調べていますし、
   以前のスタディより規模も大きいです。しかも交絡因子に対しても統計学的処置を行っています。
   それでも吸入ステロイド剤の方が若干ではあります、が死亡率が上がっている点が示されたとして
   います。
    (以下に考察を私が考察しますと)
   結局はCOPDと喘息患者がステロイド吸入を使用しても新型コロナに対して有効とは断定できない
   し、本研究の結果からは、若干ではあるが傷害性に働いている。
   ただCOPDと喘息患者が従来通り吸入ステロイド剤の使用に変更は必要でない。





私見)
 繰り返しますが本研究から得たものは、「吸入ステロイド剤が新型コロナの炎症を抑えるかもしれない
 からと言って、COPDと喘息患者に積極的に処方してはだめだ。場合により傷害性に働くかもしれない。
 しかし、従来通り使用している患者には継続することが大事だ」
 
 何かを言いたい場合に、決め言葉を避けようとするとこのように「くどく」なります。
 新型コロナの未知に挑むには慎重な対応が必要なようです。







コロナ 吸入ステロイド.pdf











posted by 斎賀一 at 20:09| Comment(0) | 感染症・衛生

2020年11月24日

慢性腎臓病とRA系阻害薬

慢性腎臓病とRA系阻害薬



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 本院での慢性腎臓病の多くが、高血圧などの動脈硬化か糖尿病が原因です。
血圧のコントロールとして、RA系阻害薬(ACE-IかARB)を主体に治療しています。
腎機能の低下や高カリウム血症の進展により腎臓専門家に紹介する事がありますが、専門家よりカルシウム拮抗薬(CCB)への変更指導を受けることもあります。
2013年のガイドライン以降は注意しながらもRA系阻害薬を投与していましたが、2018年のガイドライン以降ではむしろ推奨されなくなっています。特にステージG3bに対して、特別なガイドラインが各学会共同で出版されています。実地医家にとってはやや戸惑っていますが、その点を成書で比較しながら再考してみます。

2013年頃の文献と2018年以降の文献をまとめて下記のPDFに掲載します。
また、成書では以前のものとして「極論で語る腎臓内科」、現在のものとして「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」を拝借して、下記に掲載します。


結論的には

1) 2013年のガイドラインに則った「極論で語る腎臓内科」によりますと
   慢性腎臓病と心血管疾患は、相互に関係しあって増悪因子に成り得ます。  
   RA系阻害薬は血圧降下と蛋白尿の軽減につながります。
   RA系阻害薬の服用による蛋白尿減少でCKDの進行を抑制したいのは、実際にG3からG4です。
   血清クレアチニンの上昇が30%未満ならそのまま継続してよいが、30%以上の時は減量あるいは
   中止を勧告しています。
   しかしRA系阻害薬の投与はハイリスク・ハイリターンであり、十分に監視していけば血清クレアチ
   ニンが高くても、RA系阻害薬服用にチャレンジしてみようとまで記載しています。
    (つまり、CKDのステージG3Bでも軸足はRA系阻害薬でした。)

2) 2018年のガイドラインに沿った「腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました」によりますと、
   下記の2つの論文により軸足が変わりました。
   下記に両文献もPDFで掲載します。

   ・Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and
    long term cardiorenal risks: cohort study; 雑誌BMJ
    RA系阻害薬投与直後の血清クレアチニンが10〜30%上昇で長期予後は悪い。
   ・The impact of stopping inhibitors of the renin–angiotensin system
    in patients with advanced chronic kidney disease
    CKDステージG4~G5でRA系阻害薬から他剤に変更で腎機能が改善 
    結論としては、RA系阻害薬は尿蛋白のあるCKDに推奨されるが、進行したCKD(ステージG4、5)
    や75歳以上の高齢者では急激な腎機能低下や高カリウム血症が懸念されるため、副作用に細心
    の注意が必要 (つまり、CKDのステージG3BでのRA系阻害薬投与は中止です。)   

3) uptodateより調べました。
   腎機能低下に際しての記載は一般論として記載されており、基本的には注意深くRA系阻害薬を使用
   することを勧めています。しかし、あくまでも第一選択薬はRA系阻害薬との事です。

4) 今日の臨床サポートより調べました。
   明白に腎機能低下、つまりeGFR30以下はRA系阻害薬を中止するように勧告しています。
   特に高齢者には注意が必要なようです。






私見)
 実地医家の場合に、推奨に軸足があればアクセルを踏むことです。
 警告に軸足があればブレーキを踏むことです。eGFRが30以下とは言わず45以下のステージG3bで
 ブレーキをかけて、RA系阻害薬を中止して参ります。
 しかし「腎臓病診療に自信がつく本」の一部の記載に、糖尿病腎症ではありますがRA系阻害薬の有効
 例が記載されています。
 また時代が変わりその時が来るまで頭の片隅にしまっておきます。

 尚、地域でのオピニオンリーダーの寺脇博之教授の冊子がありましたので同時に掲載します。






◆ 参考文献

  ・極論で語る腎臓内科  丸善出版
  ・腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました   南江堂
  ・腎臓病診療に自信がつく本   カイ書林
  ・medical practice  V37 N11 2020
  ・日本医師会雑誌  V143 N11 2015






1 CKD 文献纏め.pdf

2 bmj Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks_ cohort study.pdf

3 nephrol dial.pdf

4 ckd3b-5-2017 ガイドレイン.pdf

5 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018.pdf

6 極論で語る腎臓内科.pdf

7 腎臓 高血圧診療をスッキリまとめました.pdf

8 腎臓病診療に自信がつく本.pdf

9 Uptodateより・CKDの降圧薬.pdf

10 今日の臨床サポート・CKD.pdf

11 市原医師会.pdf

12 慢性腎臓病の自己管理.pdf

13 腎臓の働きを少しでも長持ちさせるには?.pdf














posted by 斎賀一 at 21:58| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2020年11月20日

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン

慢性腎臓病と糖尿病・2020年KDIGOガイドライン
 
Diabetes Management in Chronic Kidney Disease
: Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline



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 本ガイドラインは慢性腎臓病患者(CKD)における糖尿病管理のガイドラインであり、必ずしも糖尿病性
腎症だけを扱ってはいません。


主要な部分だけを纏めてみますと

1) 糖尿病、高血圧、蛋白尿を伴う患者には、降圧薬として ACE-I または ARB を漸増しながら処方
   するのが第一選択の原則です。
   薬剤を最初に投与する場合や増量する場合には、2〜4週間ごとに血清カリウム、クレアチニンを
   調べます。

2) 治療抵抗の場合は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を漸増する。
    (アルダクトンA、セララ、ミネブロ)

3) CKDの進展と蛋白尿は、互いに悪循環を起こす事が想定されている。
   従ってACE-I、ARB、MRAは糖尿病で血圧があまり高くなく、蛋白尿が陽性の患者には腎保護の
   作用があると期待されるが、高血圧と糖尿病の合併例で蛋白尿が陰性の場合に、どれだけの腎
   保護があるかは不明である。
   しかもその場合、腎保護の観点からは他の降圧薬との差はほとんどない。

4) ACE-IまたはARBは、投与によりクレアチニンが30%増加までは漸増して投与継続が可能だが、
   血圧の下がりすぎや高カリウム血症の場合には、減量か休薬をすべきである。
 
5) 糖尿病のコントロール指標は HbA1c だが、その設定は6.5以下から8.0以下と低血糖のリスクに
   より個々人の設定になる。
   しかも eGFR が30以下では、HbA1c が低めに出てしまいバイアスがかかってしまう。

6) 血糖降下薬の第一選択は、メトグルコかSGLT-2阻害薬である。
   何れも eGFR が30以上が適応だが、SGLT-2 阻害薬に関しては、eGFRが20〜25でのトライアル
   が進行中で注目されている。
   SGLT-2 阻害薬は服用初期に eGFR の低下が認められるが、一過性であり服用を継続してよい。
   なぜならば、その後の SGLT-2 阻害薬による腎保護が期待されるからである。

7) 本ガイドラインでは、糖尿病とCKD合併例においては蛋白摂取制限を0.8g/kg/日に制限している。
 
8) 本ガイドラインでは、GLT-2 阻害薬を腎保護と心血管疾患の予防のため、糖尿病と CKD 合併症
   例には第一選択薬に推奨しています。






私見)
 CKDと降圧薬について、次回のブログで紹介します。
 何はともあれステージG3b(クレアチニンが45以下)では降圧薬の ARB は避けたほうが良いようです。
 本論文の図表は下記の PDF に掲載します。






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1 CKD 図譜.pdf

2 Diabetes Management in Chronic Kidney Disease_ Synopsis of the 2020 KDIGO Clinical Practice Guideline _ Annals of Internal Medicine.pdf












 
posted by 斎賀一 at 18:22| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺