2020年09月30日

新型コロナとインフルエンザの比較・⽶国ワシントンDCの国⽴⼩児病院からの報告

新型コロナとインフルエンザの比較・⽶国ワシントンDCの国⽴⼩児病院からの報告
 
Comparison of Clinical Features of COVID-19
vs Seasonal Influenza A and B in US Children
 


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 当初は新型コロナは成人に比べて小児には感染しにくいし、感染しても重症化は稀とされていました。
しかしデータが乏しく、実際はどうかとの情報はありませんでした。
 ⽶国ワシントンDCの中心的な国⽴⼩児病院での新型コロナ患児とインフルエンザ患児の後方解析が
雑誌JAMAに載っていましたので、纏めてみました。
なにぶんにも日本の実地医家と背景が異なる点に注意が必要です。


1) ⽶国ワシントンDCの、国⽴⼩児病院の小児科を受診した患児を対象にしています。
   新型コロナは2020年3月25日から5月15日までに診断された患児で、インフルエンザは2019年
   10月1日から2020年6月6日までに診断された患児です。
   新型コロナとインフルエンザの合併例はありませんでしたが、インフルエンザと他の呼吸器感染
   ウイルスとの合併は存在しました。
   対象となる新型コロナ患児は315名(平均年齢は8.3歳)で、インフルエンザ患児は1402名
   (平均年齢は3.9歳)です。

2) 結果は
   入院率は新型コロナ患児で17%、インフルエンザ患児は21%
   人工呼吸器の使用は新型コロナ患児で3%、インフルエンザ患児は2%でした。
   集中治療室使用は新型コロナ患児で6%、インフルエンザ患児は7%です。
   新型コロナ患児とインフルエンザ患児の差はありませんでした。
   一方で入院時の症状としては、新型コロナ患児対インフルエンザ患児では
   発熱が76%対55%、下痢嘔吐は26%対12%、頭痛は11%対3%
   関節痛及び筋肉痛は22%対7%、胸痛は11%対3%でした。
   明らかに、新型コロナ患児の方が症状は強いようです。
   咳と息切れはほぼ同じでした。
   新型コロナ患児の方が年長ですが、入院だけを見ますと新型コロナ患児が9.7歳で
   インフルエンザ患児は4.2歳でした。
   15歳以上での入院は新型コロナ患児で37%に対して、インフルエンザ患児は6%でした。
   新型コロナ患児で入院例のほとんどが、基礎疾患を有していました。

3) 考察
   インフルエンザは他のウイルスとの合併があり、今シーズンは新型コロナも流行している可能性が
   高いです。(circulation)
   そのため、インフルエンザワクチンの接種を強く推奨しています。
   特に基礎疾患のある患児には注意が必要です。
   学校閉鎖などの適切な早期対応も必要となります。






私見)
 本論文は、そのまま日本には当てはまらないと思います。
 しかし、日本でも新型コロナの第三波の可能性もあります。
 小児(小学生以下)にはインフルエンザと新型コロナの同時検査も必要かもしれません。









本論文.pdf










posted by 斎賀一 at 19:46| Comment(0) | 感染症・衛生

2020年09月28日

フォシーガ(糖尿病治療薬)がCKD(慢性腎臓病)に有効

フォシーガ(糖尿病治療薬)がCKD(慢性腎臓病)に有効
 
Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease
This article was published on September 24, 2020, at NEJM.org.



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 CKD(慢性腎臓病)の進展を抑制する薬剤としては、降圧剤の中でもACE-I、ARBとある種のCCB
でした。ACE-IとARBは糖尿病患者には腎機能の保護作用が認められていますが、最近では「CKD
ステージG3b〜5診療ガイドライン2017」には、75 歳以上の慢性腎臓病(CKD)患者の降圧療法の
第一選択薬として、腎血流低下リスクの少ないCCBが望ましいとされています。
専門家のアドバイスも、腎機能が不安定な場合はARBをある種のCCBに変更するよう指示されることも間々あります。
 
 今回雑誌NEJMより糖尿病の罹患に関係なく、つまり糖尿病患者でなくてもCKDのみで糖尿病治療薬フォシーガを服用することにより、腎保護作用があるとの有望な論文が出ています。(DAPA-CKD研究)


纏めてみますと

1) 対象者は糖尿病のあるなしに関係ないCKDの患者で、腎機能のeGFRが25~75又はアルブミン尿
   が200~5000mg/日の4304人です。
   主要転帰は
   ・eGFRの50%低下 ・末期腎不全 ・心血管疾患か腎疾患に関係する死亡としています。
   フォシーガを10mg/日服用群と、プラシーボ群に振り分けています。

2) 結果は明らかにフォシーガ群が優位であったため、2.4年で本研究は中断しています。 
   主要転帰の発生は、フォシーガ群が197/2152人(9.2%)に対してプラシーボ群では312/2152人
   (14.5%)でした。
   主要転帰の中でも腎疾患関連の危険率は0.56で、心疾患関連は0.71といずれもフォシーガ群が
   優位でした。
   糖尿病の有無にはこの結果は関係がありませんでしたし、非糖尿病患者においてもフォシーガ
   10mg服用による低血糖などの有害事象は生じていません。安全性が担保された形です。
   ただしベールラインとしてACE-IとARBは服用していました。
 



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3) ベースラインとしてのeGFRの変化は下記のグラフの様にフォシーガ導入時には低下していますが、
   これは糸球体内圧の不安定化のためとしています。
   しかしやがて安定しプラシーボ群よりも優位な結果となっています。
   この初期の低下が服用の中止により、可逆的なものかはデータがないとのことです。



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   兎も角としまして、フォシーガ群が優位な理由として糸球体内圧の低下を推測しています。





私見)
 ネットのMedscapeでも画期的な治療選択として、フォシーガに期待しています。(下記PDF)
 いずれは他の糖尿病治療薬のSGLT-2にも当てはまることと認識しています。
 とりあえず心血管疾患、腎臓病患者には大いなる選択肢と思われます。
  (Eちゃん こんなもんでいいかな?)







フォシーガ.pdf












posted by 斎賀一 at 18:55| Comment(0) | 糖尿病

2020年09月26日

糖尿病治療薬のガイドライン・2020ADA

糖尿病治療薬のガイドライン・2020ADA

Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment of Type 2 Diabetes:
Synopsis of the 2020 American Diabetes Association's Standards of
Medical Care in Diabetes Clinical Guideline
 

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 アメリカの学会ADAから、本年の糖尿病治療薬のガイドラインが発表になっています。
医学のめざましい進歩は、患者さんと医療従事者にも福音をもたらしています。
ここ数年の糖尿病治療に関しても同様です。(医療費の問題をはらんでいますが・・・)

 
 ガイドラインを纏めてみました。


 ・ 一般論として記載を羅列しますと、
    
    〇 メトグルコが第一選択であることには変わりはない

    〇 長期でのメトグルコの使用に関しては、vitB12欠乏と神経障害に注意することが大事

    〇 腎機能がeGFR30以上であれば禁忌ではない

    〇 糖尿病は、進行性の病気であることを患者にも理解してもらう必要がある。
      つまり、インスリンの導入はすべての患者に訪れる可能性があることを説明する。
    
    〇 インスリンの導入の目安は、
       
       体重の減少(catabolism)
       血糖300以上
       A1cが10以上である
      
      当然ながら糖毒性が改善すれば、インスリンから経口治療薬への変更と
      薬の整理が可能となる。

    〇 動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、慢性腎臓病(CKD)、
      心不全を合併している場合は、SGLT2阻害薬とGLP1-RAが選択薬である

    〇 治療薬の再評価と変更は、3〜6か月ごとに行う。
      コストの面では、第二選択としてスルフォニール系やアクトスも考慮

    〇 メトグルコとDPP-4阻害薬において、体重増加はない

    〇 注射薬のインスリンと、GLP1-RAは治療効果に差はない
      よって、インスリンの導入前にGLP1-RAをトライする。
      (後述しますが、本院での見解は若干異なります)
 

 ・ 心不全に関して、

    〇 アクトスは適応外である

    〇 DPP4阻害薬は種類により入院率を上げるものがある
    
    〇 SGLT2阻害薬が適応である
 

 ・ インスリン療法に関して、

    〇 糖尿病は進行性の病態である
      インスリン治療の可能性に関して、日頃より患者とコミュニケーションを
      とっておくことが大事
      (独断と偏見で、本院のインスリン治療のストラテジーを下記に纏めてみました。
      なにぶんにも現段階での事としてください)

      ◦ だらだらとインスリンの量を増加しないでインスリン製剤の変更を試みる
      ◦ 中間型インスリンNPHの少量4単位を就眠前1回打ち
        次のステップは朝、就眠前の少量2回打ち
      ◦ トレシーバ4単位より漸増、10単位まで 1日1回打ち
      ◦ ライソデクの1日2回打ち
      ◦ ゾルトファイの漸増
      ◦ インスリンとの併用はメトグルコとSGLT2阻害薬のみ

    ガイドラインの図表を参照ください。
 

 私見)
 コストの面も考慮するのは当然ですが、その意味でも効果が乏しい薬に関しては、
 変わり身の早さと整理が大事と最近、思っています。
 (生兵法は禁と思っており、なるべく単純化を旨とします)
 3か月ごとの低血糖と、A1cの再評価をしてまいります。




糖尿病治療ガイドライン.pdf







posted by 斎賀一 at 17:35| Comment(0) | 糖尿病