2020年08月17日

クラリス(抗生剤)とDOAC(抗凝固薬)

クラリス(抗生剤)とDOAC(抗凝固薬)
 
Risk of Hospitalization With Hemorrhage Among Older Adults Taking
Clarithromycin vs Azithromycin and Direct Oral Anticoagulants



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 最近の雑誌JAMAから、66歳以上でDOACを服用している高齢者が、クラリスを併用した場合に対して
の注意勧告が載っていましたので簡単に纏めてみまのした。
 DOACのうち、プラザキサは薬物を細胞外に排出するP糖蛋白質(Pgp)により代謝されますが、イグザレルトとエリキュースは、CYP3A4酵素によって代謝されるため、クラリスはCYP3A4とPgpの両方に阻害作用を持ち、DOACとクラリスを併用すると血中濃度が上昇し、凝固時間が長引くことが懸念されます。
 (詳しくは下記のラング・デールの薬理教科書から引用したPDFをご参照ください。見える範囲で拡大
  してください。)


1) DOACを服用している65歳以上の人が、抗生剤のクラリスを服用してから30日以内に入院を必要と
   する重大な出血のリスクを調べました。
   DOACと相互作用のあるクラリスに対して、同じマクロライド系抗生物質のジスロマックは少ないと
   されていますので、比較しています。




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2) DOAC(プラザキサ、イグザレルト、エリキュース)を服用している患者がクラリスを処方された
   6,592人に対して、ジスロマックを処方された18,351人と比較しています。
   主要転帰は、クラリスかジスロマックを処方されてから30日以内の出血による入院です。




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3) 結果
   登録患者は24,943名です。平均年齢77.6歳です。
   クラリス群では、出血による入院は0.77%(51人/6592人)に対して
   ジスロマック群では0.43%(79人/18,351人)でした。
   頻度は少ないと言えますが、明らかな差が認められています。




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   この結果はクラリス群とジスロマック群を比較したものですが、下記の様に大出血に絞って解析
   しますと、クラリス群とクラリスを服用していない群とで比較しても同様に、クラリスの出血による
   入院が多く認められています。
   結果は大出血を経験した647人の患者と延べ744件の解析で、クラリスロマイシン併用中の大出血
   は69件でした。危険率が1.44です。




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4) 考察
   CYP3A4の影響を受けてDOACの血中濃度が増加しますが、クラリスとの併用によりプラザキサ
   では60~80%の増加が報告されています。イグザレルトでは40~92%の増加、エリキュースは
   30%増加とのことです。DOAC服用の差異に関しては明白ではありませんでした。
   本研究ではピロリ菌を除菌した人は除外しています。 (クラリスを服用するため)
   自ずと本論文では限界(limitation)があります。
   DOACの服用量、クラリスを全量服用していたかの調査はしていません。
   (クラリスを服用した疾患名が、論文中に記載されていません。)






私見)
  最近では、感染症でクラリスを服用する適応疾患は少なくなっています。
  それでもDOAC服用患者さんには処方しない方が適切かもしれません。

  お盆休みで県内の孫が遊びに来てくれました。
  飛び切り熱い夏のため外遊びは避け、本屋に行きました。
  孫が「面白い歴史小説はなに?」と私に問いかけてくれました。

  本ブログを読んでいただいている患者さんから質問を受けると、夏の暑さにめげずに頑張ろう!
  と思います。







クラリス 本論文.pdf

薬理.pdf















posted by 斎賀一 at 20:48| Comment(1) | 循環器

2020年08月11日

プロバイオティクスの有効性について

プロバイオティクスの有効性について
 
AGA Clinical Practice Guidelines on the Role of Probiotics
in the Management of Gastrointestinal Disorders



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 最近、アメリカの学会雑誌のAGAより、消化肝疾患に対するプロバイオティクスのガイドラインが発表に
なっています。概ねプロバイオティクスの神聖化に、歯止めをかける意図があるガイドラインです。
 海外では重要な、感染性消化器疾患であるclostridioides difficileにおける有効性は限定的で、日本では発売されていないプロバイオティクスを使用しています。
他の疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群でも、患者の選別を十分に行うことが大事だと
しています。
感染性胃腸病、抗生剤との併用、低出生体重児の壊死性腸炎の予防には、ある程度期待されます。
結論としては、十分なエビデンスがすべてに欠けているとしています。






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私見)
 岩田健太郎氏の書籍の内容とほぼ同じです。
 本論文ではプロバイオティクスに対して否定的なのに対して、岩田健太郎氏の書籍は抑制的です。
 プロバイオティクスを推奨している書籍をピックアップして、抜粋を下記のPDFに纏めました。
 図表もPDF化しましたので、ご参照ください。
 なお、低出生体重児に対しての有効性を論じた論文が発表になっていますので、下記に掲載します。
 岩田氏の書籍は大変勉強になりますので、是非購入してください。
 それから、雑誌小児科の壊死性腸炎に関する論文は貴重な内容ですので、無断で拝借してしまい
 ました。





◆参考文献


・雑誌小児科 ; 小児科Vol. 54 NO.9 2013

・日本消化器病学会誌 ; 2014.111.

・雑誌小児科 ; VOL. 56 No. 1 2015

・日本消化器病学会誌 ; 2015: 112

・雑誌小児科 ; Vol. 55 No. 2 2014

・雑誌小児科 ; Vol. 57 No.2 2016

・慢性便秘症ガイドライン ; 南江堂

・薬のデギユスタシオン ; 金芳堂 岩田健太郎







1 本論文.pdf

2 プロパイオティクス文献抜粋より.pdf

3 雑誌の図表より.pdf

4 薬のデギュスタシオン 抜粋.pdf

5 壊死性腸炎 抜粋.pdf

6 Probiotic combination reduces mortality in preterm infants.pdf

7 胃腸炎の小児に対する 2 種配合プロバイオティクスの多施設共同試験 |.pdf

8 抗菌薬関連下痢症へのプロバイオティクスの予防効果に疑問符.pdf

















posted by 斎賀一 at 19:05| Comment(0) | 消化器・PPI

2020年08月07日

胃酸分泌抑制薬・PPIはコロナ時代には減量すべき

胃酸分泌抑制薬・PPIはコロナ時代には減量すべき

   
Increased risk of COVID-19 among users of proton pump inhibitors


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  胃酸分泌抑制薬・PPIは、胃潰瘍と逆流性食道炎では欠かせない治療薬です。
 しかし、胃酸分泌抑制薬・PPIに関しては、注意勧告がいろいろな論文から指摘されています。
  新型コロナ流行の現在、PPIの減量を勧める論文が雑誌に掲載されていました。
 かなりバイアスがかかっている研究のため簡単に纏めてみました。


 1) 2020年5月から6月にかけて、上部消化管症状のある人53,130人を登録しています。
   (詳しくは下記のPDFを参照してください)
   3,386人が新型コロナ陽性者でした。(6.4%)

 2) 結果
    PPIを一日一回服用している人は、新型コロナに罹患する危険率が2.15倍で、
    PPIを一日二回服用していると危険率は3.67に増加していました。

 3) 考察
    胃酸を抑制することは、感染症の機会を増加させるかもしれません。
    逆流性食道炎も患者の症状のみで処方しているケースがあり、適切にPPIを服用
    しているとは限らないので、PPIを徐々に減量する必要性が新型コロナの時代には必要です。
    さらに、H2ブロッカー(ガスター、アシノン、タガメット)への変更も考慮すべきとしています。
    減量および変更は34%で可能で、PPIを中止しても1年後の15%は無症状でした。



  私見)
   本院でも従来より、PPIの減量とH2ブロッカーへの変更を行っていましたが、コロナの時代には
  なお一層実施して参ります。







ppi コロナ2.pdf


本論文の表より.pdf





posted by 斎賀一 at 13:25| Comment(0) | 感染症・衛生