2020年07月29日

インフルエンザ治療薬のゾフルーザの予防効果

インフルエンザ治療薬のゾフルーザの予防効果
Baloxavir Marboxil for Prophylaxis against
Influenza in Household Contacts



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 2年前に、華々しく本院でも登場した一日一回服用のインフルエンザ治療薬ゾフルーザは、その後
耐性ウイルスや症状の遅延の問題が発生し、逆風に晒されています。
 今回はメーカーの必死の努力により、家庭内感染の予防効果に活路を見いだした論文が雑誌NEJMに
掲載されていましたので、纏めてみました。


1) インフルエンザは3密である家庭内と学校で伝播しますが、特に家庭内に持ち込んで若い兄弟や
   家族に感染を起こしてしまいます。
   タミフルとリレンザの場合にも耐性ウイルスは発生しますが、この場合のウイルスには感染力はなく
   従ってタミフルとリレンザの予防投与は早くから承認されていました。最近ではイナビルも承認を
   受けています。
   しかしゾフルーザによる耐性ウイルスは、その後ゾフルーザに対しての効果(感受性)が10~420倍
   も低下しています。この耐性ウイルスは、ゾフルーザを服用していると2.2~9.8%出現します。
   小児の場合は19.3~23.4%と高率です。
   また厄介な事にこの耐性ウイルスは感染の遷延化を招き、結果的には感染の増加にも繋がります。
   このことを踏まえて、ゾフルーザの予防投与における効果を調べています。

2) 方法
   2018~2019年のインフルエンザシーズンに、主に日本の実地医家で調査が行われています。
   対象者は家庭内で患者(index patient)と接触した人で
   ・インフルエンザの症状がない
   ・体温が37℃以下
   ・index patientと、少なくとも48時間は同居している事が条件です。
   ゾフルーザ群は体重ベースで一日一回ゾフルーザを服用しています。
   主要転帰は観察期間10日間でのインフルエンザの発生です。

3) 結果
   Index patient 545 例の同居家族 752 例が、バロキサビル単回投与またはプラセボ投与に
   無作為に割り付けられました。
   Index patientは、95.6%が A 型インフルエンザで、73.6%が 12 歳未満、
   52.7%がゾフルーザで治療を受けました。
   解析対象者(ゾフルーザ群 374 例、プラセボ群 375 例)のうち確定した臨床的なインフルエンザ
   を発症した割合は、バロキサビル群のほうがプラセボ群よりも有意に低かった。(1.9% 対 13.6%)
   有害事象の発現率は 2 群で同程度であった。 (ゾフルーザ群 22.2%,プラセボ群 20.5%)
   ゾフルーザ群 374 例で、PA の I38T/M 変異ウイルスが 10 例 (2.7%)
   E23K変異ウイルスが 5 例 (1.3%)検出された。
   ゾフルーザの投与を受けたindex patientからの変異ウイルスの伝播は、プラセボ群では認められ
   なかったが、ゾフルーザ群の⼀部ではその伝播を否定できなかった。

4) 考察
   ゾフルーザの迅速な予防目的の単回投与は、インフルエンザの家庭内での感染において有意な
   曝露後の効果を⽰しました。
   特に12歳以下の高リスクやワクチンの接種を行っていないグループには、効果が期待されます。
   ゾフルーザの予防効果は86%と推定されます。
   以前の文献からタミフルの予防効果は68~89%で、リレンザは82~84%と報告されています。
   ゾフルーザの予防投与は家庭内ばかりでなく、他の環境でも効果が期待されます。
   ゾフルーザの予防投与の失敗例では、緊急避難的にタミフルの投与もあり得ると考えています。






私見)
 インフルエンザは小児と高齢者がハイリスクとなります。
 今後新型コロナとのかち合わせも心配されるシーズンでは、ゾフルーザの予防投与はかなりの期待を
 持たせます。










posted by 斎賀一 at 19:02| Comment(0) | インフルエンザ

入院における新型コロナに対するデキサメタゾンの効果

入院における新型コロナに対するデキサメタゾンの効果
 
Dexamethasone in Hospitalized Patients
with Covid-19 − Preliminary Report
This article was published on July 17,2020, at NEJM.org



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 ステロイドを服用している患者さんにとって、新型コロナは現段階では十分に注意が必要な疾患です。
もしも罹患して、入院中にステロイドのデキサメタゾンの選択を求められた時、判断はどうすべきかの問いがブログでありました。
また最近では、日本でもデキサメタゾンの本疾患での適応を認めています。

 雑誌NEJMのオンラインでその根拠となる論文が掲載されていましたので、簡単に要点を纏めてみま
した。


1) ウイルス性疾患において、従来よりステロイドを使用するとウイルスの増殖に繋がるので禁忌と
   言われていますが、その反面ステロイドは最強の抗炎症作用があり、病状の進行を阻止します。
   以前のSARS,MARSやインフルエンザなどのウイルス性疾患でステロイド使用すると、ウイルスの
   クリアランス(排出)が遅延するため有害とされていましたが、今回の新型コロナ感染では、ウイルス
   の複製(増殖)は病気の初期にピークとなり、その後減少すると言われています。
   従って新型コロナ患者の重症化にはウイルスの複製は二次的な問題で、主たる病変は免疫病理学
   的要因が関与しているものと想像されています。
   今回のRECOVERY研究では、入院した患者で発症後7日以上治療を受けている患者は、炎症性
   肺損傷が強いものと想定しての研究です。

2) 今回のRECOVERY研究では新型コロナで入院した2,104名がデキサメタゾンの治療を受け、
   4,321名が通常の治療を行っています。
   デキサメタゾン群では、デキサメタゾンを一日一回6mgを経口か経静脈で、最大10日間投与して
   います。

3) 全体で28日以内の死亡率は、デキサメタゾン群で22.8%(482名)に対して、通常群では25.7%
   (1,110名)でした。
   さらに詳細に見てみますと、人工呼吸器を使用した群では死亡率に差があり、効果が出ています。
   デキサメタゾン群では29.2%に対して、通常群では41.4%です。
   酸素療法だけの群ではデキサメタゾン群が23.3%で、通常群は26.2%でした。
   一方で呼吸支援を受けていない群ではデキサメタゾン群が17.8%で、通常群が14%と逆転して
   います。
   重症化の見られない軽症の場合では、デキサメタゾンの害(harm)がありそうです。

4) 日本でも同時に承認されたレムデシビルは入院患者の回復時間を短縮する事が確認されています
   が、死亡率の低下には明白な結果が出ていません。
   デキサメタゾンとレムデシビルは、適応患者と病気の時期により使い分ける必要があります。




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私見)
 お問い合わせに関しては、基礎疾患でプレドニンを服用していて万が一デキサメタゾンを追加しても
 支障はないものと思います。

 理由としては
 ・デキサメタゾンの使用は最大で10日以内
 ・デキサメタゾンとステロイドでは、力価と作用時間が異なります。





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 ラング・デール薬理学より
 専門医は適切に漸減してくれるはずです。









posted by 斎賀一 at 13:01| Comment(1) | 感染症・衛生

新型コロナの家庭内感染・韓国からの報告

新型コロナの家庭内感染・韓国からの報告
 
Contact Tracing during Coronavirus Disease Outbreak, South Korea, 2020



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 韓国で2020年1月20日から3月27日にかけて、新型コロナ患者を対象にした調査を行いました。


纏めますと

1) 新型コロナ患者(index patient)5,706人に対して一回でも接触をした人59,073人を対象に、
   聞き取り調査を行っています。
   家庭内群(household)とは、新型コロナ患者以外の家庭の一人に聞き取りを行っています。
   高リスク(家庭内接触、医療従事者)は定期的にPCR検査を実施し、低リスクは症状のある人だけを
   対象にPCR検査を行っています。
   家庭内群とは新型コロナ患者と同居している場合で、非家庭内群とは新型コロナ患者と同じ住居に
   生活していない人を定義しました。
   (韓国方式ですので、徹底した正確なデータだと思われます。論文ではプライベートを重視したと
    述べていますが。)

2) 発生率は、(新型コロナの診断確定数 ÷ 追跡した接触者)×100 です。




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   家庭内群のindex patientは20~29歳が一番多く3.417名で32.3%です。
   10~19歳は18.6%です。全体で陽性率は11.8%でした。
   非家庭内群では陽性率が全体で1.9%です。

3) 結論
   家庭内群の伝搬は成人よりも子供に多い結果です。しかも学校閉鎖の状態での結果です。
   非家庭内群が家庭内群より少ないのは、社会ではディスタンスを守り、家族がステイホームを守って
   いたためかもしれません。一方で家庭内群での伝搬は急でした。
   家庭内群でも学童の方が0~9歳より発生頻度が多いのは、学校閉鎖でも学童は家庭外での活動が
   活発なためと推定しています。
   学校が再開し社会が自粛を緩和するに従って発生頻度の推移を注意深く観察しなくてはなりません。
   Index patientが10~19歳の場合は、家庭内群での伝搬が高いことに注目しなければなりません。






私見)
 本日のニュースでは、日本でも今回の第二波は家庭内感染が多くなっているようです。
 インフルエンザの様相を呈してきています。若い人から高齢者の伝搬が心配されます。新型コロナが土着性を獲得し始めているかのようです。弱毒性を期待するのみです。





新型コロナ 本論文.pdf








posted by 斎賀一 at 12:55| Comment(0) | 感染症・衛生