2020年07月14日

新型コロナの解剖例 微小血管の新生

新型コロナの解剖例 微小血管の新生
 
intussusceptive angiogenesisの見解
  Pulmonary Vascular Endothelialitis,Thrombosis,
and Angiogenesis in Covid-19
    n engl j med 383;2 nejm.org July 9, 2020



20714.PNG



 以前のブログでも剖検例を紹介しましたが、新型コロナにおける肺病変の特徴は、
肺胞壁の破壊(DAD)とそれに続くヒアリン膜(hyaline membrane)の形成と器質化にあると記載
しました。肺の細血管の血栓症はそれによる二次的な病変と捉えています。
 今回はアメリカからの新見解の報告です。新型コロナと以前にインフルエンザで亡くなった方のそれぞれ
7例を肺疾患以外で亡くなった方と比較しています。


 簡単にまとめてみました。

1) 新型コロナで死亡した7例、インフルエンザによるARDS(急性呼吸不全)で死亡した7例、
   肺移植ドナーの非感染性肺組織を年齢補正して、組織病理、免疫化学染色、電子顕微鏡、
   血管鋳型による走査顕微鏡、遺伝子発現解析を行い解析しています。

2) 結論
   ・インフルエンザ群は間質浮腫があり他の群と比較して重量が多い。
   ・新型コロナ群とインフルエンザ群では従来の報告のようにDAD関連の病変が認められた。
   ・新型コロナウイルスが侵入する時に関係するACE-2は、肺胞上皮細胞と血管内皮細胞に
    新型コロナ群とインフルエンザ群に認められたが、コントロール群には稀であった。
   ・炎症関連遺伝子(血管新生関連遺伝子)を調べると新型コロナ群とインフルエンザ群では
    共通の部分もあるが、新型コロナ群特有の遺伝子も明らかになった。
   ・肺血管の血栓は新型コロナ群とインフルエンザ群ともに認められたが、肺胞における
    毛細血管の微小血栓数は、新型コロナ群の方がインフルエンザ群の9倍多かった。
   ・肺の微小血管を精査すると新型コロナ群の特徴は血管新生である。(angiogenesis)
    それには2つの要素があり一つは発芽(sprouting)と嵌入(intussusception)である。
    発芽は内皮細胞が血管のない部分に伸びている所見で、嵌入は拡張した血管腔に隔壁が生じて
    複数の血管に分離する所見です。



          20714-2.PNG
  
 (上のイラストはNEJMにはありません。オリジナルから削除され様ですが筆者の思いが伝わると考え
  掲載します。)


 嵌入性血管新生は新型コロナ群はインフルエンザ群の2.7倍でしかも入院期間が長いほど程度は
増加していた。発芽性血管新生も新型コロナ群の方がインフルエンザ群より多い傾向でした。
・血管内皮細胞内に新型コロナウイルスが存在する事はウイルスの直接的な障害を推測されます。

 これらのことから以下が新型コロナの特徴となります。

 @細胞内のコロナウイルスが直接作用した内皮細胞障害と内皮細胞間の断絶
 A肺胞の毛細血管の微小血栓
 B嵌入性血管新生
 


私見)
 詳細には下記のPDFの図で説明します。
 私のインプレッションを述べますと、ACE-2はウイルスの侵入の場合にも関与しますが、肺においては
 炎症を抑えるために戦っている援軍と思われます。ただし過剰に反応しているかもしれません。
 また、新型コロナはインフルエンザの場合のARDSと異なり新型コロナウイルスが直接的に血管内
 皮細胞に潜り込んで、特異的な血管新生を起こす不気味な存在です。
 その反応は、遺伝子学的に血管新生関連に関係しています。
 この遺伝子発現は従来からあるものなのか(ファクターX)または疾患により発現したものかは
 門外漢にはわかりません。
 ともかく、本論文のために費やされた決死の努力には町医者の身でも感動します。




新型コロナの血管新生1.pdf








posted by 斎賀一 at 11:42| Comment(1) | 感染症・衛生