2020年07月20日

メトグルコは中等度の腎機能低下でも処方可能

メトグルコは中等度の腎機能低下でも処方可能
 
Hospitalization for Lactic Acidosis Among Patients With Reduced
Kidney Function Treated With Metformin or Sulfonylureas



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 メトグルコは安価で低血糖の心配も少なく、体重増加の副作用もありません。
そのため糖尿病治療薬の第一選択薬です。ただし、シックデイ(下痢や嘔吐、造影剤使用)の場合と乳酸アシドーシスの発生に注意が必要です。特に腎機能低下の患者さんには十分な配慮が大事だとされて
います。
 しかし最近のエビデンスは、中等度の腎機能低下では必ずしも禁忌ではないとされています。
この点に関しましては私のブログでも以前に紹介しています。

 今回、雑誌Diabetes Careから、腎機能低下(eGFRが60mL/minute以下)で服用しても禁忌では
なさそうとの論文が掲載されています。


纏めますと

1) メトグルコの対照薬としてス、ルフォニル系薬剤を選んでいます。
   ある期間服用後に、eGFRが60mL/minutesを切った時点から調査を始めています。
   下記のsuppleの図をご参照ください。



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2) 結論
   腎機能が低下してからの服用で、乳酸アシドーシスによる入院の発生の頻度は、メトグルコと
   スルフォニル系薬剤と有意差はありませんでした。



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メトグルコ群では4.2人/1,000人に対して、スルフォニル系薬剤は3.7人/1,000人でした。
サブグループとして腎機能がさらに低下した45mL/minutesでは、メトグルコ群で12.9人/1000人で
スルフォニル系薬剤では8.6人/1000人でした。
やはりsuppleの方が分かりやすいので、下記に掲載します。



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私見)
 サブグループとして腎機能のeGFRが30mL/minutes以下は検討していません。
 FDAの勧告通りに禁忌とした方が良さそうです。
 結局、メトグルコは60以下で処方しても良いのですが、45以下になったら要注意と言うことでしょうか。






メトグルコ 本論文.pdf










posted by 斎賀一 at 20:34| Comment(0) | 糖尿病

2020年07月18日

甲状腺結節の診断

甲状腺結節の診断
 
Thyroid Nodules: Advances in Evaluation and Management


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 エコー検査の際に偶然、甲状腺に腫瘤を見つけることがあります。
大まかに言って下記の疾患を鑑別していきます。


・腺腫様甲状腺結節
  一見、良性の腺腫様に見える過形成疾患です。
  時間の経過とともに濾胞性変性、線維化、石灰化、骨化、出血という二次的変化が起きます。
  上皮が濾胞内腔に乳頭状に一見増殖することがあり、乳頭癌と誤診しないよう注意が必要です。
   (飯島病理より)

・腺腫様甲状腺腫
  上記の腺腫様甲状腺結節が多発している場合です。病理的には過形成疾患です。
  言葉的に注意が必要です。良性の腺腫に見えるが単に甲状腺が腫れている、つまり甲状腺腫です。
  (脾臓が腫れれば脾腫といいますが、甲状腺が腫れているから甲状腺腫ということになります。
   外国ではgoiterと言って混乱が生じません。)

・良性の甲状腺濾胞性腺腫
  さすがに腺腫は甲状腺から言葉的に離れています。
  単純性腺腫、コロイド腺腫、好酸性細胞腺腫、異型腺腫があります。
  (ルービン病理より)
  異型腺腫は、病理的にも癌との鑑別が困難です。

・甲状腺癌
  乳頭癌と濾胞癌がありますが、細胞の形で決めてしまいますので乳頭癌が多くなります。


 甲状腺の結節を鑑別するのは、実地医家にとってはかなりしんどいです。
勉強すればするほど袋小路に入ってしまいます。
勢いで専門家に紹介することが多いのですが、その際に一度単純に考えて、それから詳細に検索した
方がよい場合があります。
それにぴったりの論文が雑誌american family physicianの総説に載っていましたので、
纏めてみました。


1) 甲状腺に結節病変が見つかるのは、68%といわれています。
   しばしば偶然に発見され、ほとんどが良性です。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が正常、または高値の
   場合は、原則としてFNA(穿刺細胞診)が勧められる場合もありますが、一般的には低エコーの充実
   性で1cm以上の結節性病変の場合に推奨されています。

2) 最近では、細胞診に分子生物学的診断を併用する傾向です。
   残念ながらエビデンスが十分でない点と長期予後のデータに乏しく今後の研究が待たれますが、
   臨床家も積極的に取り入れることが大事です。

3) 悪性の可能性があれば、6〜9ヶ月のエコーの再検が必要です。

4) 完全な嚢胞性(cystic)の場合やスポンジ状または嚢胞性が優位の場合は、ほとんどが良性のため
   2cm以上の場合のみFNAを勧めます。
   もしもFNAを行わない場合は、12~24ヶ月後のエコー再検を推奨します。

5) 実地医家の場合は結節が増大傾向の場合は紹介が必要であるが、繰り返しのFNAで悪性の診断が
   なければ、その後はエコーのみの経過観察で増大に注意すればよい。




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私見)
 参考文献を下記のPDFに掲載します。
 さすがに厚かましい私でも、ガイドラインのテキストは一部とさせていただきます。
 閲覧希望の方は医院長に申し出てください。または是非購入してください。






甲状腺エコー 伊藤病院.pdf

甲状腺腫瘍の超音波診断.pdf

抜粋.pdf








posted by 斎賀一 at 16:33| Comment(0) | 甲状腺・内分泌

2020年07月16日

原発性硬化性胆管炎(PSC)

原発性硬化性胆管炎(PSC)



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 前のブログで紹介しました原発性胆汁性胆管炎(PBC)と間違えやすい病名の原発性硬化性胆管炎に
ついても簡単に解説します。


Uptodateから簡単に纏めてみますと

・PSCは、肝内または肝外の慢性進行性の胆汁うっ滞を呈する炎症性疾患である。
・潰瘍性大腸炎(UC)との合併例が散見される。
 報告によると、25~90%と幅が大きいPSCの患者に大腸ファイバーを詳細に実施すれば、90%近い
 合併が推測されている。
・PBCやAIH(自己免疫疾患肝炎)と異なり、本疾患は男性が70%である。
・原因は潰瘍性大腸炎との合併が多いことより、腸内細菌説、自己免疫疾患説、虚血性説などが推測
 されている。


いつものように「今日の臨床サポート」を拝借して纏めてみます。

・原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis、PSC)とは、原因不明の慢性胆汁うっ滞性
 の肝疾患で、肝内外胆管のびまん性の炎症と線維化により徐々に胆管狭窄を来たし、病態が進⾏する
 と胆汁性肝硬変となり、門脈圧亢進や肝不全に⾄る疾患である。

・原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断基準に沿って診断する。
 特に、胆管癌、IgG4関連硬化性胆管炎および⼆次性硬化性胆管炎との鑑別が最も重要である。

・PSCに特徴的とされる胆管像を確認する。
 @ 帯状狭窄(band-like stricture) ︓⻑さ1〜2mmの狭窄
 A 数珠状所⾒(beaded appearance)
 B 剪定状(枯れ枝状)所⾒(pruned-like stricture) ︓肝内胆管分枝の減少
 C 憩室様突出(diverticulum-like outpouching)

・⼀般に、PSCの病状は数年から数⼗年にかけて緩やかに進⾏する。
 その臨床経過は各症例によってさまざまであり、慢性の胆管炎の程度や合併しやすい胆管癌の合併が
 予測困難であることから、その予後を推測することは容易ではない。

・進⾏例では肝移植が唯⼀の救命法であり、⽣体部分肝移植が⾏われる。

・胆道の画像診断が重要であり、IgG4関連疾患との鑑別をする。

・2015年に⾏われたPSC患者435名の全国調査[3]によると、男⼥⽐は263 ︓172と男性(60%)に
 やや多く、年齢分布は20歳代と60歳代に2つのピークがみられた。
 また、診断時の初発症状は⻩疸が19%で、無症状な症例が62%を占めた。
 潰瘍性⼤腸炎などの炎症性腸疾患の合併を40%に認めた。したがって、上記のことを念頭に置き
 ながら、以下の項目に注意して、問診と診察を⾏う必要がある。

・⾎液⽣化学検査により、ALP、γ-GTP、AST、ALT、T.Bilなどの肝胆道系酵素の持続する異常⾼値を
 認める。また、好酸球増多や抗核抗体陽性がみられることがある。

・腹部超⾳波検査(US)またはCTで、胆管の拡張や胆管壁の肥厚を認める。

・肝⽣検による組織検査では、門脈域の慢性炎症細胞浸潤、線維性拡⼤、隔壁胆管や⼩葉間胆管の
 胆管周囲の線維化がみられるが、特異性に乏しい。
 ⽟葱状(onion skin fibrosis)と呼ばれる層状の胆管周囲の線維化は、診断的意義が⽐較的⾼い。





私見)
 AIH、PBC、PSCの三疾患は肝障害の患者さんの鑑別の際に重要ですし、似て非なる疾患でも
 あります。
 またIgG4関連疾患も鑑別を要するようです。下記に掲載しました。
 職員の皆さんも十分に理解して、患者さんには検査の手順についても納得してもらってください。
 病理も下記のPDFに掲載しました。





1 PSCまとめ.pdf

2 PSC 消化器病理の見かたのコツ.pdf

3 I gG4  消化器病理の見かたのコツ.pdf










posted by 斎賀一 at 13:23| Comment(0) | 消化器・PPI