2020年07月31日

新型コロナの抗体は早期に減退?

新型コロナの抗体は早期に減退?
 
Rapid Decay of Anti–SARS-CoV-2 Antibodies
in Persons with Mild Covid-19
This letter was published on July 21, 2020,
and last updated on July 24, 2020, at NEJM.org


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 報道でもされていますが、新型コロナの抗体は期待するほどには持続せず、再感染の危険やワクチンに
対する効果も疑問視され懸念されています。

 今回雑誌NEJMより、カリフォルニアから具体的症例集が短報(correspondence)として掲載されて
いましたのでブログしてみます。


1) 抗体検査は、新型コロナウイルスの表面にあるスパイク抗原に対するIgG抗体検査をELISA法で
   調べています。(以前の私のブログでも紹介しましたが、スパイク抗原に対する抗体は必ずしも
   ウイルスの防御に働く中和抗体を調べてはいません。中和抗体を正式に調べるには、動物実験が
   必要なようです。)

2) 34名の対象者はほとんどが軽症者としています。  平均年齢は43歳(21~68歳)
   34人中31人は時間をあけてIgGを2回測定し、3人は3回測定しています。
   最初の測定は発症後平均37日後(18~65日)  最終測定は平均86日(44~119日)です。

3) 結果的にはIgGの半減期(半分に減少する期間)は、平均で36日でした。
   つまり、1ヶ月もすると抗体は半分に減少してしまいます。
   筆者は「スパイク抗原がウイルスの侵入に重要な働きがあるので、これに対する抗体は中和抗体
   (病気の予防効果)に匹敵すると警告しています。



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論評)
  論評では、必ずしも直接的な中和抗体を調べていない点に注意が必要としています。
  本論文も、中国からの報告でも、新型コロナウイルスに対する本来の、免疫機能のT-細胞
  に関しては調べていないとしています。



私見)
 ワクチンの効力に関して、今現在判断するのは早計だと思いますが、少なくとも抗体のIgGを
検査して、今後の免疫力を判断するのは控えた方が良さそうです。




抗体検査1.pdf

抗体検査 2.pdf

抗体検査3.pdf

ブログ1.pdf

ブログ2.pdf

ブログ3.pdf

ブログ4.pdf














 
posted by 斎賀一 at 12:19| Comment(0) | 感染症・衛生

2020年07月29日

インフルエンザ治療薬のゾフルーザの予防効果

インフルエンザ治療薬のゾフルーザの予防効果
Baloxavir Marboxil for Prophylaxis against
Influenza in Household Contacts



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 2年前に、華々しく本院でも登場した一日一回服用のインフルエンザ治療薬ゾフルーザは、その後
耐性ウイルスや症状の遅延の問題が発生し、逆風に晒されています。
 今回はメーカーの必死の努力により、家庭内感染の予防効果に活路を見いだした論文が雑誌NEJMに
掲載されていましたので、纏めてみました。


1) インフルエンザは3密である家庭内と学校で伝播しますが、特に家庭内に持ち込んで若い兄弟や
   家族に感染を起こしてしまいます。
   タミフルとリレンザの場合にも耐性ウイルスは発生しますが、この場合のウイルスには感染力はなく
   従ってタミフルとリレンザの予防投与は早くから承認されていました。最近ではイナビルも承認を
   受けています。
   しかしゾフルーザによる耐性ウイルスは、その後ゾフルーザに対しての効果(感受性)が10~420倍
   も低下しています。この耐性ウイルスは、ゾフルーザを服用していると2.2~9.8%出現します。
   小児の場合は19.3~23.4%と高率です。
   また厄介な事にこの耐性ウイルスは感染の遷延化を招き、結果的には感染の増加にも繋がります。
   このことを踏まえて、ゾフルーザの予防投与における効果を調べています。

2) 方法
   2018~2019年のインフルエンザシーズンに、主に日本の実地医家で調査が行われています。
   対象者は家庭内で患者(index patient)と接触した人で
   ・インフルエンザの症状がない
   ・体温が37℃以下
   ・index patientと、少なくとも48時間は同居している事が条件です。
   ゾフルーザ群は体重ベースで一日一回ゾフルーザを服用しています。
   主要転帰は観察期間10日間でのインフルエンザの発生です。

3) 結果
   Index patient 545 例の同居家族 752 例が、バロキサビル単回投与またはプラセボ投与に
   無作為に割り付けられました。
   Index patientは、95.6%が A 型インフルエンザで、73.6%が 12 歳未満、
   52.7%がゾフルーザで治療を受けました。
   解析対象者(ゾフルーザ群 374 例、プラセボ群 375 例)のうち確定した臨床的なインフルエンザ
   を発症した割合は、バロキサビル群のほうがプラセボ群よりも有意に低かった。(1.9% 対 13.6%)
   有害事象の発現率は 2 群で同程度であった。 (ゾフルーザ群 22.2%,プラセボ群 20.5%)
   ゾフルーザ群 374 例で、PA の I38T/M 変異ウイルスが 10 例 (2.7%)
   E23K変異ウイルスが 5 例 (1.3%)検出された。
   ゾフルーザの投与を受けたindex patientからの変異ウイルスの伝播は、プラセボ群では認められ
   なかったが、ゾフルーザ群の⼀部ではその伝播を否定できなかった。

4) 考察
   ゾフルーザの迅速な予防目的の単回投与は、インフルエンザの家庭内での感染において有意な
   曝露後の効果を⽰しました。
   特に12歳以下の高リスクやワクチンの接種を行っていないグループには、効果が期待されます。
   ゾフルーザの予防効果は86%と推定されます。
   以前の文献からタミフルの予防効果は68~89%で、リレンザは82~84%と報告されています。
   ゾフルーザの予防投与は家庭内ばかりでなく、他の環境でも効果が期待されます。
   ゾフルーザの予防投与の失敗例では、緊急避難的にタミフルの投与もあり得ると考えています。






私見)
 インフルエンザは小児と高齢者がハイリスクとなります。
 今後新型コロナとのかち合わせも心配されるシーズンでは、ゾフルーザの予防投与はかなりの期待を
 持たせます。










posted by 斎賀一 at 19:02| Comment(0) | インフルエンザ

入院における新型コロナに対するデキサメタゾンの効果

入院における新型コロナに対するデキサメタゾンの効果
 
Dexamethasone in Hospitalized Patients
with Covid-19 − Preliminary Report
This article was published on July 17,2020, at NEJM.org



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 ステロイドを服用している患者さんにとって、新型コロナは現段階では十分に注意が必要な疾患です。
もしも罹患して、入院中にステロイドのデキサメタゾンの選択を求められた時、判断はどうすべきかの問いがブログでありました。
また最近では、日本でもデキサメタゾンの本疾患での適応を認めています。

 雑誌NEJMのオンラインでその根拠となる論文が掲載されていましたので、簡単に要点を纏めてみま
した。


1) ウイルス性疾患において、従来よりステロイドを使用するとウイルスの増殖に繋がるので禁忌と
   言われていますが、その反面ステロイドは最強の抗炎症作用があり、病状の進行を阻止します。
   以前のSARS,MARSやインフルエンザなどのウイルス性疾患でステロイド使用すると、ウイルスの
   クリアランス(排出)が遅延するため有害とされていましたが、今回の新型コロナ感染では、ウイルス
   の複製(増殖)は病気の初期にピークとなり、その後減少すると言われています。
   従って新型コロナ患者の重症化にはウイルスの複製は二次的な問題で、主たる病変は免疫病理学
   的要因が関与しているものと想像されています。
   今回のRECOVERY研究では、入院した患者で発症後7日以上治療を受けている患者は、炎症性
   肺損傷が強いものと想定しての研究です。

2) 今回のRECOVERY研究では新型コロナで入院した2,104名がデキサメタゾンの治療を受け、
   4,321名が通常の治療を行っています。
   デキサメタゾン群では、デキサメタゾンを一日一回6mgを経口か経静脈で、最大10日間投与して
   います。

3) 全体で28日以内の死亡率は、デキサメタゾン群で22.8%(482名)に対して、通常群では25.7%
   (1,110名)でした。
   さらに詳細に見てみますと、人工呼吸器を使用した群では死亡率に差があり、効果が出ています。
   デキサメタゾン群では29.2%に対して、通常群では41.4%です。
   酸素療法だけの群ではデキサメタゾン群が23.3%で、通常群は26.2%でした。
   一方で呼吸支援を受けていない群ではデキサメタゾン群が17.8%で、通常群が14%と逆転して
   います。
   重症化の見られない軽症の場合では、デキサメタゾンの害(harm)がありそうです。

4) 日本でも同時に承認されたレムデシビルは入院患者の回復時間を短縮する事が確認されています
   が、死亡率の低下には明白な結果が出ていません。
   デキサメタゾンとレムデシビルは、適応患者と病気の時期により使い分ける必要があります。




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私見)
 お問い合わせに関しては、基礎疾患でプレドニンを服用していて万が一デキサメタゾンを追加しても
 支障はないものと思います。

 理由としては
 ・デキサメタゾンの使用は最大で10日以内
 ・デキサメタゾンとステロイドでは、力価と作用時間が異なります。





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 ラング・デール薬理学より
 専門医は適切に漸減してくれるはずです。









posted by 斎賀一 at 13:01| Comment(1) | 感染症・衛生