新型コロナの剖検・2報告
以前の私のブログで武漢からの剖検例(下記のPDF参照)を掲載しましたが、今回ドイツからの論文が
2つ報告されていますので掲載します。
・Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients
With COVID-19(ドイツ ハンブルグからの報告)
纏めますと
1) 臨床症状を的確に判定するには、ウイルスの診断と同時に剖検例の検討も大事である。
最近では従来の剖検に加えて、CTやMRIなどの画像診断を駆使した、所謂virtual autopsyも
活用されている。
新型コロナのウイルス診断が確立した12例を報告しています。
平均年齢は73歳 (52〜87歳)
基礎疾患として、冠動脈疾患が50%、COPDが25%です。
2) 7/12(58%)に深部静脈血栓症を認めていますが、剖検前診断はされていません。
その内4例は下肢の深部静脈血栓症から肺塞栓症を起こし、死因となっています。
3例は明らかに細菌性肺炎を合併していますが、肉眼的には新型コロナが原因の肺病変と鑑別は
出来ません。
しかし、組織学的にDAD(diffuse alveolar damage)が8例も認められており、これが新型コロナ
の肺病変の特徴と考えられます。 (下記のPDFをご参照ください。)
本論文の症例ではDADは殆どが早期の病変でヒアリン膜(hyaline membrane)を認めています。
しかし、中にはDADの後期病変の扁平上皮化生や、基質化が生じています。
若い人では進展したDAD病変が認められますが、高齢者で基礎疾患として肺疾患を有する場合は、
早期のDAD病変であるヒアリン膜の所見です。(推測しますと、高齢者で肺疾患のある場合は、肺
胞壁の滲出病変のヒアリン膜の段階で、既に重症化するものと思われます。)
肺の細動脈には、微小血栓が全ての症例に認められています。
また、新型コロナウイルスが全ての患者の肺組織に高い値で検出されています。
3) 高い頻度で深部静脈血栓症を認めています。
DAD病変から組織障害の因子が促進され、凝固系のカスケードが活性化して全身の静脈血栓が
生じます。この事は、臨床的にもD-dimerが高値の場合に予後が悪い事に通じます。
DADの基質化の進展が早いのが本ウイルスの特徴ですが、この事が死亡例において人工呼吸器が
有効でなかった理由としています。
4)結論
D-dimerの高値は凝固系の異常のサインです。
早期での抗凝固薬の使用が検討されるべきと考えています。
私見T)
キーワードはDADです。
肺の末梢である肺胞壁がダメージを受け、滲出性病変から増殖性病変にまで進展するのがDADです。
人体では、凝固系は平衡を保ちつつ眠った状態です。それが体内の組織が障害されると、この場合は
肺胞にDAD病変が生じると、これは大変と凝固系の活性化がカスケード的に起こり、血液の滲出を食い
止めようとします。
その結果血栓が生じてしまいます。
・Postmortem Examination of PatientsWith COVID-19
(ドイツ アウクスブルクからの報告)
纏めますと
1) 新型コロナで死亡した10例の剖検所見です。
平均年齢は79歳(64〜90歳)7例が男性
入院からの死亡は平均で7.5日(1〜26日)
肺の基礎疾患は2例(肺気腫など)
2) 血栓塞栓症は一例もありませんでした。
肺の組織的病変はDADが基本です。
DAD病変は肺の全てに認められますが、中葉と下葉が著明でした。
3) 全ての症例で、肺組織に新型コロナウイルスを同定できました。
私見U)
本論文には静脈性血栓についての記載がありませんが、やはりキーワードはDADの様です。
最初の論文より高齢者が多いようです。
最後に)
DADに関しては、私の以前のブログをご参照ください。
DAD病変は、間質性肺炎の急性増悪や他のウイルス疾患の重症例、有毒ガスによる暴露等、色々な
肺の重症例に起こる病理的所見です。
ネットで的確な資料を見つけましたので、同時に掲載します。
1 コロナ 剖検.pdf
2 コロナ 剖検 JAMA.pdf
3 DAD 病理.pdf
新型コロナの病理4 (ARDS)_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf