2020年04月01日

新型コロナの病理(ARDS)

新型コロナの病理(ARDS)

1・Pulmonary pathology of early phase SARS-COV-2 pneumonia
2・Pathological findings of COVID-19 associated with acute
respiratory distress syndrome


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志村さんの死は、日本国民に悲しみと衝撃をあたえました。
新型コロナは80%の感染者が軽症なのに、なぜ激甚な経過をとったのか不安に駆られる人も
多いと思います。
中国武漢の病理学者は、いち早く一部の新型コロナの病態は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)として
世界に警告を発していました。2つの論文を拝読するに、涙が出るほどの感動を覚えます。
私なりに理解してブログしてみます。


先ず、一般論のARDSの病理から説明します。
細菌性肺炎は毒性のある細菌により起りますが、ウイルス性肺炎(インフルエンザ、水痘、麻疹等)は
弱毒性のため、一般的には軽症で治ります。
病理的に、細菌性は肺胞実質性炎症で、ウイルス性は間質性炎症です。

       急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態を説明する前に、肺の構造を示します。


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       肺は酸素を取り入れる臓器です。その末梢には、肺胞と言うブドウの房のような
       小さな袋があります。

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        この肺胞で酸素を取り入れ、炭酸ガスを排出してガス交換をしています。

臓器には、実質と間質があります。臓器の働きをするのが実質で、それを支えているのが間質です。
例えば、肝臓では肝細胞が実質で、それを取り囲んでいる線維組織が間質です(グリソン梢)。
では、肺は、と言えば肺胞の中の空間が実質です。それを取り囲む毛細血管を含む組織が間質です。
実質が単なる空間とは理解が出来にくいのですが、肺はガス交換が機能ですから、そのように理解して
ください。

では、ARDSはどのような経過をとるかと言うと、
先ず、ウイルスが肺胞に侵入すると炎症が起きます。
ウイルス性肺炎とは、間質性肺炎の事で、肺胞の中でなく、主戦場は肺胞の間質で起きます。
        
        下の図の左が正常、右が間質性肺炎(肺胞炎)です。

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肺胞の間質が炎症反応を起こして、先ず浮腫(edema)が起きます。
続いて、タンパク成分の多いヒアリンが析出して、hyaline membraneという膜が、肺胞壁の表面を
覆い尽くします。そうなると、当然ガス交換が出来なくなり呼吸困難となります。
更に進むと、炎症細胞の滲出も加わり、肺胞壁は固くなり、やがて、線維化と言う治癒が困難な状態
となります。

        下のグラフを参照しますと、7日の経過で劇症となります。

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            edema;浮腫、hyaline membrane;硝子膜(ガラス様)ヒアリン膜
            interstitial;間質性、fibrosis;線維化


        正常の組織像を見てみますと、肺胞がきれいに膨らんでいます。

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志村さんは、ヘビースモーカーとの事です。肺気腫とCOPDについて説明しますと、喫煙により、
肺胞の間質(特に弾性繊維)が破れた状態が肺気腫です。
喫煙は、病態に加算されます。ちょうどサーカス小屋の、はりの一本が折れたような状態で、
肺胞がペチャンコになって、ガスの交換も出来ないし、ウイルスを排出する事が出来なくなります。
志村さんは、肺気腫の状態が所々に有ったかもしれません。

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     ARDSの組織像をみますと、

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       肺胞内には淡い滲出液が出ており、肺胞壁には赤いヒアリンの膜が覆っています。
       やがて、肺胞壁は細胞滲出を伴い、厚く線維化の方向に悪化します。


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     下記の組織像は、武漢から2つの報告である新型コロナ患者3例の病理像です。


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何れも、ARDSの所見と合致しますが、新型コロナでは、間質の反応が早く激しい印象です。
ヒアリン膜の反応も認められますが、肺胞壁細胞の2型細胞と、マクロファージの反応が強いようです。
肺胞壁細胞には、下記のイラストの様に何種類かの細胞があります。
ARDSの場合には、肺胞壁2型細胞が線維化の中心です。


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なぜ、多くの人は反応が軽度なのに、一部の人だけが激しい反応をするのでしょう。
免疫が弱いだけでは説明できません。
武漢からの論文の一部に、適切な時期でのステロイドの投与は、肺胞の障害を阻止できないかとの
記載があります。(多くの論文ではステロイドの全身投与は無効との報告です。)



私見)
今、日本では国立感染症研究所に対する批判ともとれる要望や、一部専門家の的外れな誹謗が
見受けられます。
私も、その一人だったかもしれません。今世界のすべての人が、新型コロナと真摯に戦っています。
評論家に成り下がらず、自分の責務を全うしようと思うばかりです。



追加)
 細菌性の肺炎について簡単に説明します。
 炎症の主戦場は肺胞の実質、つまり肺胞の中の空間です。
 肺胞に細菌が侵入すると、炎症が強く反応して、白血球が滲出し細菌と戦います。

下記に組織像を示します。


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        肺胞の中に白血球が埋め尽くされています。

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        大葉性肺炎とは細菌性肺炎のひどい状態です。
        やはり、肺胞の中が、白血球と滲出物で充満しています。


図譜は色々な所から拝借しました。
 uptodate 、飯島の病理アトラス、etc


1 病理.pdf

2 Pathological findings of COVID-19.pdf









posted by 斎賀一 at 21:40| Comment(1) | 感染症・衛生