2020年01月31日

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の高血圧治療

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の高血圧治療
 
Treating Hypertension in Chronic Obstructive Pulmonary Disease
n engl j med 382;4 nejm.org January 23, 2020


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 高齢化社会において、高血圧とCOPDを合併しているケースが増加傾向です。
高血圧から心疾患への進展は炎症が関与していると考えられていますがCOPDも炎症が病態を悪化
させます。両疾患共に炎症がキーワードです。




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 現在の高血圧のガイドラインでは明白な記載がないようですが、実際の臨床現場では高血圧とCOPDに関しては、エビデンスに基づいて治療を行なっているとの事です。

 今回雑誌NEJMより、COPDに関しての個々の降圧治療薬に関して、総説が載っていましたので纏めてみました。  (以前の私のブログと重なる点がありますが、再度チェックしてください。)


1) 降圧利尿薬
   サイアザイド系利尿薬が第一選択薬となります。
   他の降圧薬との併用でもサイアザイド系利尿薬があれば、心血管疾患の発生予防に繋がり、また
   COPDの増悪も抑えられるとのエビデンスがあります。
   注意点として、COPDで使用する吸入β刺激薬(agonist)は細胞内にカリウムを取り入れてしまうし、
   ステロイドはカリウムの尿中排泄を促すため、COPDの治療においては低カリウム血症になり易い
   状態です。
   そこにサイアザイド系利尿薬を処方すると、低カリウム血症を助長しかねません。
   定期的な電解質のモニタリングが必要です。
   ループ系利尿薬はサイアザイド系よりも低カリウム血症を起こしやすいし、COPDの増悪も認められ
   ています。
   ARBとの併用は低カリウム血症の予防となり、理にかなった併用です。

2) ACE阻害薬とARB
   明らかにACE阻害薬よりもARBの方が咳の副作用がない事から優位です。
   ARBは心血管疾患の予防効果もあり、また肺の線維化予防にもつながるためCOPDの増悪を抑制
   します。
   COPDの吸入β刺激薬や吸入ステロイド薬による低カリウム血症を、ARBは相殺して予防すると
   いった利点もあります。

3) β-ブロッカー
   心血管疾患は炎症として捉える見かたもあります。
   その意味でもCOPDと心血管疾患は同じ系統の疾患ともいえます。
   結論的に言えば、COPD患者が心筋梗塞等の心血管疾患を併発している場合に、β-ブロッカーの
   処方を懸念し過ぎる傾向があると忠告しています。
   寧ろ心選択制のアーチストやメインテートを漸増処方すれば、利点が多いと勧めています。





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4) カルシウム拮抗薬(CCB)
   CCBは日本では頻用されています。
   理論的には気管支拡張作用も備わっている感じですが、明白なCOPDに有効とのエビデンスはなく、
   単なる降圧作用としての利点に留まるようです。

5) 経口ステロイド薬
   COPDの増悪時には経口ステロイドを使用する事があります。
   一日40mgで二週間までは心配ないとのエビデンスもありますが、血圧上昇の副作用が少しずつ
   増加します。
   また吸入ステロイドの場合も高用量では血圧を上昇させるようです。

6) 降圧薬抵抗性
   併用薬のチェックが大事です。
   点鼻薬、抗アレルギー薬、鼻炎の併発、睡眠時無呼吸






COPDの急性増悪の予防のためのβ-ブロッカー_ _Font Size=_6_斎賀医院壁新聞_Font_.pdf






















posted by 斎賀一 at 19:47| Comment(0) | 喘息・呼吸器・アレルギー

2020年01月29日

新型コロナウイルスの入院患者の臨床症状・その3

新型コロナウイルスの入院患者の臨床症状・その3

               雑誌Lancetより
Clinical features of patients infected with 2019 novel
coronavirus in Wuhan, China
www.thelancet.com Published online January 24, 2020



           【本論文の患者は重症例です。今発生している軽症を含めた
            症例でなく、当然ながら過剰な反応には注意が必要です。】




1) 免疫の予防物質であるサイトカインの多く出るcytokine stormが、重症化と関連性がありそうだ。
   (インフルエンザの重症化も同様)

2) 年齢分布 : 一般病棟とICU
          平均年齢は49歳



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3) 武漢の海鮮市場との関係
   66%が海鮮市場と関係していた。
   2019年12月1日は他の家族に症状は出ていないが、その後1例に発症



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4) 年齢と基礎疾患
   73%が男性、糖尿病が注意疾患
   (これだけで基礎疾患のある人が多いかは不明)


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5) 症状
   発熱、咳嗽、筋肉痛、痰、頭痛、血痰、下痢、呼吸困難の順に記載
   呼吸困難は55%で、発症から8日で出現



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6) 検査結果は下記のPDFにて掲載し、解説します。

7) 治療と転帰
   二次感染が10%、32%がICUに入院、15%が死亡
  
8) 考察
   2019-nCoVはSARSに類似している。
   急性呼吸不全(ARDS)に進展し、ICUの入院や酸素療法を必要となる患者がいる。
   医療従事者に感染している事より、人―人感染が認められている。
   N95や個人的なマスクが必要である。
   重症例(入院)は発熱、乾性咳嗽、呼吸困難、両側性の肺浸潤(CTでスリガラス様)を認めている。
   しかし、多くの2019-nCoV患者は上気道感染(クシャミ、鼻水、咽頭炎)の症状は稀で、下気道感染
   が主である。 (論文により異なります。)
   また、SAESやMERSと異なり消化器症状は稀です。
   2019-nCoVは血中サイトカインが多く認められており、重症化との関連性が推測される。
   しかしプレドニンの全身投与に関しては、未だ明白な所見は無い。
   抗ウイルス薬に関してはこれからの段階である。





本論文より.pdf








posted by 斎賀一 at 19:27| Comment(1) | 感染症・衛生

もう10年、もう1つのコロナウイルス・その2

もう10年、もう1つのコロナウイルス・その2

                  雑誌NEJMより 
Another Decade, Another Coronavirus
January 24, 2020 DOI: 10.1056/NEJMe2001126




1) 2019-nCoVはSARS-CoVに75~80%と類似しており、幾つかのコウモリ-コロナウイルスと近い
   関係がある。

2) SARSやMERSと異なり、培養液よりも人の気道粘膜に親和性があり増殖しやすい。

3) 遺伝子配列も判明して、現在は診断のための試薬が新たに開発されてきている。
   診断が迅速になり、感染経路の特定が可能になると期待される。

4) SARSやMERSの場合は広範に感染するsuperspreadingが問題だったが、2019-nCoVは現時点
   では不明である。

5) SARSやMERSは上気道よりも下気道に感染したため、はっきりした症状のある人からの感染だった
   が、2019-nCoVはSARSと同様と考えられるので症状が出現してからの感染が多いと想定される。
   (実際には潜伏期での感染も報告されておりますが、やはり主体はカタル期か症状出現からが多い
    と思います。)

6) 2019-nCoVは変異が激しく、SARSやMERSよりも人への親和性が増加している。

7) 2019-nCoVの起源はコウモリと推定されるが、直接人に感染したか間に他の動物が関与してかは
   今後の研究

8) 感染の主体はdropletと思われるので、飛沫感染が主体と推定される。
   (取り敢えずマスクが有効でしょうか。)










posted by 斎賀一 at 18:42| Comment(0) | 感染症・衛生