脳梗塞後の至適コレステロール値は?
A Comparison of Two LDL Cholesterol
Targets after Ischemic Stroke
This article was published on November 18, 2019, at NEJM.org
Targets after Ischemic Stroke
This article was published on November 18, 2019, at NEJM.org
脳梗塞/一過性脳虚血発作(TIA)を発症した後にコレステロールをどの程度低下させるべきか、
はっきりしたデータがありませんでした。しかも、あまりコレステロールを下げ過ぎると脳出血の危険が
生ずるとの警告もあり、又スタチン系薬剤(コレステロール降下薬)が新規の糖尿病を誘発するとの心配と
相まって、意外に中途半端な対応をしてきました。 (私事ですが)
今回雑誌NEJMより積極的治療(lower-target;より低めに)とやや穏やかな治療(higher-target;
マイルドに)の比較試験が掲載されていましたので、纏めてみます。
1) 地域学的な差をなくすため、フランスと韓国での調査研究です。
研究期間は平均で3.5年間ですが、韓国での開始が遅れたためと研究のファンド(製薬メーカの
サポート)が中断したため、両国の調査期間に若干の相違が生じています。
2) 対象者は脳梗塞発症の3か月以内、又は一過性脳虚血発作(TIA)の15日以内の患者として
います。
又全ての患者は脳血管と心血管の動脈硬化症を伴っており、且つスタチン、ゼチーア又は両方を
服用している事としています。
登録患者を積極的治療群(lower-target);目標LDLを70mg/dLと
マイルド治療群(higher-target);目標LDLを90~110mg/dLの2群に振り分けています。
2,860名が登録され、その中1,430名づつが両群に振り分けられました。
主要転帰はMACE(major adverse cardiovascular event)としての脳梗塞、心筋梗塞、
緊急の冠動脈及び頸動脈の血管再建術、心血管疾患の死亡としています。
3) 登録者のベースラインの平均LDLは、135mg/dlです。
研究により達成した積極群のLDL平均は65mg/dl、マイルド群では平均96mg/dlでした。
期間中に使用した薬剤は、積極群ではスタチンのみが65,9%、ゼチーア併用が33,8%でした。
一方マイルド群ではスタチンのみが94.0%、ゼチーア併用が5.8%でした。
つまり積極的にLDLを低下させるためには、ゼチーアの併用も必要なようです。
4) 主要転帰(MACEの発生)は積極群で121例(8.5%)、マイルド群では156例(10.9%)でした。
懸念されている副作用ですが、脳内出血は積極群で1.3%、マイルド群は0.9%で危険率は1.38
です。
しかし95%CI(95%信頼区間)は0.66~2.82と幅がある事を考えると、統計学的にその差は
少ないとしています。
更に新規の糖尿病発症は積極群で103例(7.2%)、マイルド群で82例(5.7%)、
危険率は1.27(95%CI,0.95~1.70)です。やはりその差は殆どないとしています。
(統計学オンチとしましては、やや強引とも感じるのですが)
5) 結論としては、脳梗塞とTIA後の至適LDL値は70以下としています。
もしもそのためにゼチーアの処方が必要ならば、それはマイルドな治療(90~110mg)よりも有用
でした。
詳細な結果はグラフをご参照ください。
私見)
今後本院でも、次の点を考慮して参ります。
・スタチン服用開始の場合はLDLより総コレステロールの測定を採用していますが、治療後の適正量を
判定する場合は、論文の関係上LDLを多用しましょう。 (計算式は原則行わない)
・厳格なリスク管理をしましょう。
・ゼチーアのメーカの人に、これからは少し優しくしましょう。
本論文より.pdf