2019年11月29日

脳梗塞後の至適コレステロール値は?

脳梗塞後の至適コレステロール値は?
 
A Comparison of Two LDL Cholesterol
Targets after Ischemic Stroke
 This article was published on November 18, 2019, at NEJM.org 




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 脳梗塞/一過性脳虚血発作(TIA)を発症した後にコレステロールをどの程度低下させるべきか、
はっきりしたデータがありませんでした。しかも、あまりコレステロールを下げ過ぎると脳出血の危険が
生ずるとの警告もあり、又スタチン系薬剤(コレステロール降下薬)が新規の糖尿病を誘発するとの心配と
相まって、意外に中途半端な対応をしてきました。 (私事ですが)


 今回雑誌NEJMより積極的治療(lower-target;より低めに)とやや穏やかな治療(higher-target;
マイルドに)の比較試験が掲載されていましたので、纏めてみます。

1) 地域学的な差をなくすため、フランスと韓国での調査研究です。
   研究期間は平均で3.5年間ですが、韓国での開始が遅れたためと研究のファンド(製薬メーカの
   サポート)が中断したため、両国の調査期間に若干の相違が生じています。

2) 対象者は脳梗塞発症の3か月以内、又は一過性脳虚血発作(TIA)の15日以内の患者として
   います。
   又全ての患者は脳血管と心血管の動脈硬化症を伴っており、且つスタチン、ゼチーア又は両方を
   服用している事としています。
   登録患者を積極的治療群(lower-target);目標LDLを70mg/dLと
   マイルド治療群(higher-target);目標LDLを90~110mg/dLの2群に振り分けています。
   2,860名が登録され、その中1,430名づつが両群に振り分けられました。
   主要転帰はMACE(major adverse cardiovascular event)としての脳梗塞、心筋梗塞、
   緊急の冠動脈及び頸動脈の血管再建術、心血管疾患の死亡としています。

3) 登録者のベースラインの平均LDLは、135mg/dlです。
   研究により達成した積極群のLDL平均は65mg/dl、マイルド群では平均96mg/dlでした。
   期間中に使用した薬剤は、積極群ではスタチンのみが65,9%、ゼチーア併用が33,8%でした。
   一方マイルド群ではスタチンのみが94.0%、ゼチーア併用が5.8%でした。
   つまり積極的にLDLを低下させるためには、ゼチーアの併用も必要なようです。

4) 主要転帰(MACEの発生)は積極群で121例(8.5%)、マイルド群では156例(10.9%)でした。
   懸念されている副作用ですが、脳内出血は積極群で1.3%、マイルド群は0.9%で危険率は1.38
   です。
   しかし95%CI(95%信頼区間)は0.66~2.82と幅がある事を考えると、統計学的にその差は
   少ないとしています。
   更に新規の糖尿病発症は積極群で103例(7.2%)、マイルド群で82例(5.7%)、
   危険率は1.27(95%CI,0.95~1.70)です。やはりその差は殆どないとしています。
   (統計学オンチとしましては、やや強引とも感じるのですが)

5) 結論としては、脳梗塞とTIA後の至適LDL値は70以下としています。
   もしもそのためにゼチーアの処方が必要ならば、それはマイルドな治療(90~110mg)よりも有用
   でした。
   詳細な結果はグラフをご参照ください。






私見)
 今後本院でも、次の点を考慮して参ります。
 ・スタチン服用開始の場合はLDLより総コレステロールの測定を採用していますが、治療後の適正量を
  判定する場合は、論文の関係上LDLを多用しましょう。 (計算式は原則行わない)
 ・厳格なリスク管理をしましょう。
 ・ゼチーアのメーカの人に、これからは少し優しくしましょう。






本論文より.pdf








 


posted by 斎賀一 at 22:29| Comment(0) | 脂質異常

2019年11月27日

慢性心不全薬の適正量の男性と女性の比較

慢性心不全薬の適正量の男性と女性の比較
 
Identifying optimal doses of heart
failure medications in men
compared with women
Lancet 2019 Oct 5; 394:1254



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 雑誌LANCETの論文を、下記のネットを参考にしてブログします。


ネット記事の内容を纏めてみますと

1) 最近のガイドラインは、薬の薬理学的動態よりもランダマイズ研究より、経験的なデータを重視し
   薬剤の適正量を決めていると言った欠点がある。

2) 今回はヨーロッパのBIOSTAT-CHF研究からの報告です。
   左室駆出率が40%以下の心不全患者(HFrEF)を対象にしています。
   治療開始して、少なくとも3か月が経過している(survived)患者さんです。
   男性が1,308名(平均年齢は70歳)で、女性(平均年齢は74歳)が402名です。
   治療はACE阻害薬、ARB、β-ブロッカーを漸増しています。

3) 男性はガイドラインに沿った100%の容量の服用で、最も高い率で心不全による入院と死亡を減少
   させています。しかし女性ではガイドラインの半分の容量で30%もリスク減少していましたし、その後
   容量を増やしても効果は同じでした。
   この傾向はASIAN-HF研究でも同様の結果でした。

4) ガイドラインに沿った漸増は一つのガイドであるが、決して指示では無い事を認識すべきである。
   もしかして我々臨床家は、患者に対して適正量ではなく害を与えているのかもしれない。






私見)
 論評者のClyde W Yancy MDの「guides not edicts」は実施医家にとっても重みのある言葉です。







1 LANCET.pdf

2 ネットより.pdf











posted by 斎賀一 at 19:14| Comment(0) | 循環器

2019年11月25日

冠微小循環障害;Coronary Microvascular Dysfunctionについて

冠微小循環障害;Coronary Microvascular Dysfunctionについて
 
Coronary Microvascular Dysfunction
Causing Cardiac Ischemia inWomen
JAMA Published online November 18, 2019



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 最近、マスコミにも取り上げられて注目されています冠微小循環障害について、雑誌JAMAに総説が載っていましたので勉強して纏めてみました。

 先ず前段として、他の文献より関連した内容を記載します。

  a; 冠攣縮性狭心症は太い冠動脈で起る攣縮で、異型狭心症もその一部です。
    よって血管造影検査時に、冠動脈の攣縮を観察する事ができる。
  b; 冠微小循環障害(CMD)は細い動脈のため、攣縮を実際に見る事は出来ません。

 タイプとしては
  ・一次的微小血管狭心症(primary MVA); 太い冠動脈の閉塞は無い。
  ・二次的微小血管狭心症(secondary MVA); 太い冠動脈の閉塞があるか、又は心筋疾患がある
   場合。

 微小血管狭心症(MVA)は狭心症症状がある一般的な用語です。
 つまり、冠微小循環障害と微小血管狭心症は同じ意味合いで使用されています。
 冠微小循環障害は、様々な原因で起る症候群的とも言えそうです。
 (下記のPDFをご参照ください。)


さて本論を纏めてみました。

1) 冠動脈造影検査で、閉塞が認められない虚血性心疾患の症状がある人の2/3は女性です。

2) 冠微小循環障害の臨床症状は、胸部不快感、息切れ
   心電図でST変化の無い事も多々あるので注意する。症状が20分と長引くことも多い。
   つまり冠動脈造影検査で異常がなくても、冠微小循環障害の可能性があるので安心は出来ない。
   10年後に心疾患で死亡する率は、13人中1人の割合です。
   しかも、健康な人に比べて心疾患で入院するのは10倍です。
   臨床家は過剰診断を恐れずに、冠微小循環障害の可能性を念頭に危険因子を調べて行かなくては
   ならない。

3) 先ず二次的な冠微小循環障害があるかを診断する必要がある。
   リスク因子の評価 ; 高血圧、脂質異常症、糖尿病、心疾患の家族歴  
   65歳以上の患者さんは、冠動脈造影をして閉塞の有無を調べる。
   次に診断的治療をして効果を見る。
   ・少量アスピリン ・スタチン ・降圧薬(ARB 、CCB、追加として時に血管拡張のβ-ブロッカー
    ヘルベッサー)
   本論文ではアーチストを勧めています。
   またアダラート、ワソランを使用すると、その後の硝酸塩の使用量も削減出来るとしています。




 ◆参考文献

  ・冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)
  ・Coronary Microvascular Dysfunction
    N Engl J Med 2007;356:830-40.
  ・Cardiovascular disease in women:Prevention, symptoms, diagnosis,
   pathogenesis
   CLEVELAND CLINIC JOURNAL OF MEDICINE VOLUME 80 ・ NUMBER 9
   SEPTEMBER 2013
  ・今日の臨床サポート
  ・uptodate
   Microvascular angina: Angina pectoris with normal coronary arteries






私見)
 雑誌JAMAより、患者さん用のパンフが掲載されています。
 私が拙訳しましたので患者さんに配布してください。下記のPDFに掲載しました。
 
 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害とを混同しないでください。
 医学の進歩は凄まじいものがありますが、未だ冠微小循環障害は投薬して初めて診断できる疾患でも
 あります。十分なリスク因子の判定が必須条件です。
 治療の内容においては同じでも、冠攣縮性狭心症は頂上作戦に対して、冠微小循環障害は裾野作戦に
 なる事も理解してください。







1 患者用 微細循環障害.pdf

2 文献より 冠攣縮性狭心症.pdf

3 微細循環障害.pdf

4 微細循環障害 .pdf

5 冠攣縮性狭心症.pdf

6 Cardiovascular disease in women.pdf











posted by 斎賀一 at 20:39| Comment(0) | 循環器