2019年08月31日

少量アスピリンは手術の前に中止すべきか

少量アスピリンは手術の前に中止すべきか
 
Should we stop aspirin before noncardiac surgery?


 
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 抗血小板薬の少量アスピリンは血栓性疾患(冠動脈疾患、脳梗塞)の二次予防に有効な薬剤ですが、手術の際には休薬による血栓性疾患の再発と、継続服用による出血のリスクとを勘案しなくてはなりま
せん。

 今回雑誌のCLEVELAND CLINIC JOURNAL OF MEDICINEに総説が載っていましたが、的確な
図表が掲載されていますので、ブログして本院も参考にいたします。
色々な研究論文(study)が簡単に紹介されていますが、それらを纏めてみますと


1) 冠動脈疾患のない人が手術をする際は、出血のリスクが利点より上回るので、少量アスピリンは中断
   する。

2) 利点がリスクを上回るならば、重大な心血管疾患の再発が心配されるため、少量アスピリンは継続を
   検討する。

3) PCI(経皮的冠動脈形成術)を行っている患者はステントの種類に関係なく、少量アスピリンは中断
   せず継続服用する。

4) 以前ステントによるPCIを行っている患者で、現在は少量アスピリンを服用していなくても、禁忌で
   なければ専門家と相談して、少量アスピリンの再開を考える。


下記にストラテジーの図をPDF化して掲載します。
補足説明しますと

 ・手術は下記の3種類に分けられる。
  a : 緊急性】 生命や四肢切断の危険があるため、6〜24時間以内に実施する場合
  b : 悪性手術などの時間的にある程度余裕がある場合】 1〜6週間以内に実施の予定
  c : 待機的】 1年以内の手術が予定できる。

 ・手術の時間的な危険範囲は、バルーンでは14日以内、ベアメタルステントでは30日以内、薬剤溶出性
  ステントでは6カ月以内です。
  PCI治療をしている場合は、一般的に12カ月程度手術を遅らせる。
  しかし、手術をする利点がステント内の再血栓のリスクを上回るなら、3〜6カ月で検討する。





私見)
 アスピリンは論争のある薬剤です。
 だからこそ、きめ細かい対応が必要なようです。





本論文より.pdf

Should we stop aspirin.pdf












2019年08月29日

糖尿病・厳格治療に対する忠告

糖尿病・厳格治療に対する忠告
 
Severe Hypoglycemia Attributable to Intensive Glucose-
Lowering Therapy Among US Adults With Diabetes



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 多くのガイドラインや学会から、糖尿病治療に対しての層別化(個々の患者に合った治療選択)を推奨
していますが、未だ実地医家の段階で十分にガイドラインに沿った治療がなされていないとの論文が掲載されています。
 著者の一人のMcCoy氏が、2016年の雑誌JAMAに発表された論文に基づきアメリカ全土のデータ(NHANES)と比較する事により、実際にどの程度の人が厳格治療によるリスクを有しているかを計算
して、今回雑誌Mayoに投稿しています。

 論文の内容は下記のPDFに表されていますので、そちらをご参照ください。
尚、認知症に関してはNHANESには記載がないため、生活環境(ADL)から推測して統計処置して
います。


ザックリと纏めますと

1) 厳格治療の定義は
   ・HbA1cが5.6以下、又は糖尿病治療薬を2剤以上処方している場合はHbA1cが5.7~6.4として
    います。

2) 対象者は2011~2014年のNHANESの統計より、HbA1cが7.0以下の糖尿病患者です。

3) 結論的に纏めますと
   ・75歳以上の高齢者 
   ・腎機能低下(CKD) 
   ・認知症 
   ・合併症のある人(冠動脈疾患、心不全、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患)、診断されて5年以内の
    癌患者
   以上の患者に対して、厳格治療は注意が必要との警告です。 






私見)
 何も、闇くもに実地医家は厳格治療をしている訳ではありません。
 何とかしなくてはとの思いから、多剤併用となってしまうのです。
 この論文を契機に私も再考します。
 マイブーム(ガンガン行きたいのです!)は治療戦略には悪手のようです。






1 本論より.pdf

2 本論文.pdf

3 dm jama.pdf












posted by 斎賀一 at 15:28| Comment(0) | 糖尿病

2019年08月28日

抗生剤は大腸癌の危険因子

抗生剤は大腸癌の危険因子
 
Oral antibiotic use and risk of colorectal
cancer in the United Kingdom


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 以前より、抗生剤を服用していると腸内細菌叢が変化して、腸の免疫機能の低下から発癌の進展が
生ずると言われていました。今回はその仮説に従って、抗生剤の服用量と種類による分析をしています。
服用量は、日数で表しています。


纏めますと

1) 1989~2012年にかけて、結腸直腸癌(CRC)群の28,980例とコントロール群の137,077例を比較
   検討しています。

2) 抗生剤の使用は大腸癌の発生に関連性が認められたが、特に近位結腸にその関連性があり、
   中でも嫌気性抗生剤が際立っていた。
   直腸癌にはその関連性は認められない。
   ペニシリン系のアモキシリン(パセトシン、ワイドシリン)に特に関連性が認められたが、テトラサイク
   リン系はむしろ逆相関であった。
   ペニシリン系は小腸では吸収されず、近位結腸にそのまま到達してそこで吸収される。
   よって近位結腸が一番抗生剤に晒されることになる。逆に直腸では抗生剤の影響は少なくなる。

3) Fusobacterium nucleatum, Parvimonas micra, Gemella morbillorum, などの菌が
   発癌性を想定されている。





私見)
 詳しい危険率に関しては、本論文をご参照ください。
 仮説に基づいた論文ではないと思いますが、抗生剤で腸内細菌がかき乱されて、そのまま癌に一直線
 となってしまうほど腸は脆いものなのでしょうか。
 注意が必要である事には間違いがないようです。






Oral antibiotic use and risk of colorectal cancer.pdf












posted by 斎賀一 at 19:32| Comment(0) | 消化器・PPI