2019年07月08日

高齢者の心不全における至適血圧は?

高齢者の心不全における至適血圧は?
 
Systolic Blood Pressure and Outcomes in Patients
With Heart Failure With Reduced Ejection Fraction
JOURNAL OF THE AMERICAN COLLEGE OF CARDIOLOGY
V O L . 7 3 , NO. 2 4 , 2 0 1 9



0708.PNG



 今年度の本邦の高血圧ガイドラインにおける至適血圧に対する内容が独り歩きしている感があります。
やや趣が異なりますが、アメリカの学会JACCより入院した高齢者における心不全の血圧管理に関する
論文が出ていましたので、ブログにしてみました。
 統計上の登録が多少煩雑なので解説しますと、退院時に収縮期血圧が130以下の場合の予後を調べるため、入院時の血圧があまりにも高い人と低い人は除外しています。更に入院時と退院時での血圧の低下が20以上変化した人と変化が少なかった人も分けて調べています。
 調査方法は図で示した方が分かりやすいので、下記の表をご参照ください。



         0708-2.PNG




本論文の主たる目的は、上図の一番左側の(a)欄の5,615名を対象に統計学的処置を行って、退院時の血圧が130以下と以上での其々1,189名の予後を比較しています。


纏めますと

1) 研究Medicare-linked OPTIMIZE-HF registryに登録されている25,345名の中から極端な血圧
   患者を除外して、更に心機能低下患者(駆出率40%以下)10,535名を選んで調査しています。
   またその中で、入院時から退院時での血圧の変化が20mmHg以下の人を選んでいます。
   つまり入院時にも退院時にも著明な基礎疾患があり、血圧変動に関与するような人はこの研究から
   除外するためです。
   更に統計学的処置を施して(propensity scores)退院時に血圧が130以下と以上の人を対比
   できるようにして、それぞれ1,189名を比較しています。
   平均で年齢は76歳、駆出率は28%、45%が女性です。

2) ・退院後30日後での全死亡率を比較しますと
     130以下が7%、130以上が4%で、危険率は1.76でした。
     但し、死亡の様々な原因(confounder)がこの結果に混在してしまいますので、バイアスが
     掛かります。推定でそのバイアスは最大で21%と考えられます。
     (バイアスを差し引きますと、130以下では5.6%となり危険率は1.4です。やはり高い事に変わり
     はないようです。)

   ・退院1年後での全死亡と、心不全での再入院で130以下の人を以上と比較しての危険率は、1.32
    と1.11でした。
    その全死亡の危険率は6年間続いています。 (危険率1.15)
   但し、ここにもバイアス(confounder)が掛かっています。
    下記のPDFをご参照ください。

  ・特に退院時血圧が110~129と130以上を、30日後と1年後で比較しますと
   全死亡率の危険率は1.50、心不全の危険率は1.19でした。
   この事は、極端な基礎疾患での血圧低下患者は除外して比較しますと、明らかに130以下の患者の
   方が予後が悪い事になります。
   
3) 考察として
   ・血圧が低ければ、収縮性の心機能低下を意味する。またそれが心不全での入院にも繋がる。
    統計学的処置以前のベースラインでは、血圧が130以下の群の方が基礎疾患で心筋梗塞が多く、
    利尿剤とジギタリス(強心剤)の服用が多かった。
    そのためでもあり、統計学的処置を行っている。 (propensity scores)

   ・ガイドラインでは心不全のある高血圧患者の至適血圧は130以下となっている。
    本論文の主旨はこのガイドラインに反対するものではない。

   疑問点として
    a; 心不全で130以上の患者が、適切に治療を受けているかは分からない。
    b; 130以上の患者に対して更に降圧剤を追加すべきか、そのまま継続すべきか判明して
       いない。
    c; 130以下の患者に対しても予後が悪いのは更なる降圧剤が必要なのか、それとも降圧剤を
       中止するべきか判明していない。

   結論としては、正常血圧(110~129)の患者でも心不全を合併していると、130以上の人と比べて
   危険率が高いと言う事です。
   早急な研究が待たれるとしています。




私見)
 当然ながら至適血圧は患者さんにより異なります。
 高齢者では140以下に血圧を下げる場合には心機能、臨床症状など総合的に評価して薬物療法を
 行い、漸減していく事が大事な様です。
 特に心不全を合併している場合には注意が必要です。







1 abstract.pdf

2 本論文より.pdf












posted by 斎賀一 at 21:58| Comment(0) | 循環器