2019年07月30日

PPI(胃酸分泌抑制薬)は安全?

PPI(胃酸分泌抑制薬)は安全?
           <短 報>



 PPIに関しては私のブログでも何回か話題にしてきましたが、今回は3年間使用してもその安全性は
あるとの論文が掲載されています。
PPIの長期使用に関して懸念されている点は、骨粗鬆症、クロストリジウム・ディフィシル感染症、肺炎、
心血管疾患、腎機能、胃癌、など多岐に亘ります。

以上の懸念材料に対して平均3年間、最長5年間の今回の研究では、PPI服用群の危険率は服用して
いない群と同じであったとの報告です。
但し消化管感染症(クロストリジウム・ディフィシル感染症など)だけの危険率は1.33と高めでした。

これに対してmedscapeなどの他の論評では、本研究はPPIの安全性を目的としていない論文も、多くデータとして取り込んでいると批判的です。






私見)
 PPIは有用な薬剤でその安全性も高いと認識しています。
 しかし長期の使用に関しては従来通り服用の仕方、力価の問題、H2ブロッカーへの変更など慎重さが求められます。






Safety of Proton Pump Inhibitors Based on a Large, Multi-Year, Randomized Tr.pdf








posted by 斎賀一 at 21:39| Comment(2) | 消化器・PPI

2019年07月29日

拡張期血圧も大事です

拡張期血圧も大事です
 
Effect of Systolic and Diastolic Blood Pressure
on Cardiovascular Outcomes
N Engl J Med 2019;381:243-51.



0729.PNG



 当たり前の結果と思われかねませんが、私にとっては重大な警鐘ですのでブログで纏めてみました。
収縮期血圧は心臓の収縮によって生ずる血圧ですが、拡張期血圧は大動脈が収縮する際(元に戻る)に生ずる血圧です。つまり大動脈が鉛の様に硬ければ拡張期血圧は限りなく低くなります。
脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)が多かったり、拡張期血圧が低い事は動脈硬化が進んでいる可能性があると患者さんに説明していました。
現にフラミンガム研究を利用した10年リスク計算でも、拡張期血圧は無視しています。そうは言っても拡張期血圧は複雑な要因が互いに絡まって成り立っています。
 今回の雑誌NEJMの論文ではその点に注目しての臨床医に対する警鐘と思われます。



簡単に纏めますと (一部日本語版をコピー)

1) 最近改訂されたいくつかのガイドラインでは、高血圧治療の閾値が異なる(140/90 mmHg 以上と
   130/80 mmHg 以上)ため、理解をより困難にしています。
   一般外来患者集団の成人 130 万人のデータを用いて、8 年間において収縮期高血圧と拡張期
   高血圧の負担が心筋梗塞、脳梗塞、脳出血からなる複合転帰に及ぼす影響を評価した。
   対象者は18歳以上で、2007年 1 月~2008年 12 月の間に、少なくとも1回は血圧を測定した事
   のある人です。転帰の評価は2009年 1 月から2016年 12 月までとしています。
   血圧の測定は自動血圧計を用いています。判定方法に関しては下記のPDFに掲載しました。
   収縮期高血圧の持続的負担(140 mmHg 以上、ハザード比1.18)と拡張期高血圧の持続的負担
   (90 mmHg 以上、ハザード比 1.06)によって、複合転帰が独立して予測された。
   (つまり拡張期高血圧もそれなりに危険である。)
   低い高血圧閾値(130/80 mmHg 以上)を用いた場合と、高血圧の閾値を用いずに収縮期血圧と
   拡張期血圧を、予測因子として用いた場合でも同様の結果が得られた。
   (つまり高血圧のガイドライン基準に関係なく、血圧は低ければ低い方が良い。)
   高齢者では、拡張期血圧と転帰との間に J カーブの関係が認められましたが、統計学的処置を
   しますと、収縮期高血圧の影響がより大きいことも判明しました。
   注意点としては、本研究では冠動脈疾患の患者が少ない傾向でした。
   拡張期血圧と J カーブの関係は、高齢者や既に冠動脈疾患を有する人、細動脈疾患を有する臓器
   障害のある人に認められた所見でした。

2) 結論として
   収縮期血圧の上昇のほうが転帰への影響が大きかったが、収縮期高血圧と拡張期高血圧は高血圧
   の定義(140/90 mmHg 以上または 130/80 mmHg 以上)を問わず、いずれも独立で有害心
   血管イベントのリスクに影響を及ぼした。







私見)
 詳細は本論文のグラフを下記にPDF化しましたので、ご参照ください。
 収取期血圧の危険率は1.18で、拡張期血圧は1.06と収縮期血圧の方が重要で間違いはないの
 ですが、年齢と伴に冠動脈疾患や腎疾患などの細動脈疾患を有する人は、拡張期血圧にも注意が
 必要です。
 (心血管を有する患者さんには、低くても高くても注意が必要です。)
 拡張期血圧が90以上の場合は放置せずに眼底、尿検査にて細動脈硬化症の有無もチェックする
 事が大事な様です。







血圧NEJM.pdf











posted by 斎賀一 at 22:16| Comment(1) | 循環器

2019年07月27日

妊娠中のインフルエンザ・ワクチンは安全

妊娠中のインフルエンザ・ワクチンは安全
5歳時までの調査結果
 
Health outcomes of young children born to mothers who received
2009 pandemic H1N1 influenza vaccination during pregnancy



0727.PNG


 

 妊娠中のインフルエンザ罹患は、時に重大な結果をもたらすため各学会からのガイドラインは、妊婦の
インフルエンザ・ワクチンの接種を勧めています。
それでも妊婦の方は躊躇されるケースが多くあり、接種率も低い傾向です。

 今回カナダからの報告が英国の雑誌BMJに掲載されています。
出産後5歳時までの観察期間の報告です。



纏めますと

1) 2009年11月~2010年10月に出産した135,807人の新生児を対象としています。
   但し、出生体重は500gr以上で、妊娠20週以上での出産としています。
   その中でH1N1インフルエンザ・ワクチンを受けた妊婦は30%でした。
   (最終的にはインフルエンザ・ワクチンを接種した妊婦が4,359名で、接種しなかった妊婦が
   10,100人登録され調査しています。)

2) ワクチンを受けていな人をコントロール群としています。

3) 5歳時までの副反応を調べました。
   主要転帰は、呼吸器感染症、喘息、急性中耳炎、癌、神経疾患、救急疾患の受診の既往、
   5歳までの死亡率です。

4) 結果は、ワクチンを接種した妊婦及びその出産した子供の5年経過を見ても(5歳時まで)
   コントロール群と差は無く、インフルエンザ・ワクチンの安全性が証明できたとしています。
   (下記のPDFのグラフをご参照ください。)





私見)
 長期予後での安全性が証明されました。
 接種が妊娠のどの時期にされたかは論文中に詳細に記載していませんが、uptodateから調べても
 どの時期においても(any time)安全が証明されているため、本論文では問題視しなかったのかも
 しれません。
 念のため原文も掲載します。






1 本論文より.pdf

2 インフルエンザワクチン 妊娠.pdf

3 Immunization before, during, and after pregnancy - UpToDate.pdf














posted by 斎賀一 at 18:57| Comment(0) | ワクチン