2019年05月29日

塞栓源不明脳梗塞発症後の脳卒中予防にDOACは?

塞栓源不明脳梗塞発症後の脳卒中予防にDOACは?
                   ・Rivaroxaban for Stroke Prevention 
                    after Embolic Stroke of Undetermined Source
                   ・Dabigatran for Prevention of Stroke
                    After Embolic Stroke of Undetermined Source

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 虚血性脳梗塞の原因としては、頭蓋内外の動脈硬化性疾患、細動脈閉塞や心源性の血栓がありますが、原因が不明な場合も20~30%存在します。
英語ではCryptogenicとしますが、最近ではundeterminedと記載される傾向です。
 ガイドラインでは、脳梗塞の2次予防には抗血小板薬(少量アスピリン、プラビックス、パナルジン)が推奨されています。しかし原因不明の場合、その多くは心房細動を代表とする心源性が疑われます。
そこで、2次予防の目的で抗凝固薬(DOAC)を投与した場合の効果を研究した(study)論文が、雑誌NEJMに2つほど発表になっています。

a) 2018年6月に発表されたイグザレルトに関する論文と、
b) 2019年5月に発表されたプラザキサに関する論文です。

結論としてはDOAC(イグザレルトとプラザキサ)は少量アスピリンと比較して、塞栓源不明脳梗塞の初発後の脳卒中再発予防に関しては優越性を示さず、出血リスクがより高い傾向でした。


1)イグザレルトの論文を纏めますと
  ・脳梗塞の再発率は、アスピリン群とイグザレルト群では5%/年と同等でした。
  ・重大な出血の症例は、イグザレルト群の方が1.1%/年増加していました。
   内訳として脳内出血は、イグザレルト群が0.3%/年に対してアスピリン群では0.1%/年でした。
  ・ホルター心電図を用いて6カ月間調べていますが心房細動の発生は両群合わせて3%でした。
   以前の研究ではイグザレルトは心房細動を有する患者の脳梗塞の再発に予防効果ありとされて
   いました。この事から推測しますと塞栓源不明脳梗塞においては、心房細動は主たる原因疾患では
   ないとしています。


2)プラザキサの論文を纏めますと
  ・脳梗塞の再発率はプラザキサで4.1%/年、アスピリン群で4.8%/年
  ・重大な出血はプラザキサで1.7%/年、アスピリン群で1.4%/年
  ・事後分析によると、プラザキサは1年後から脳梗塞再発の予防効果が出始めるようですが、事後
   分析のため明白ではない。
  ・本研究(RE-SPECT)は他の研究(CRYSTAL-AF、FIND-AF)と同様に、心房細動の発生は
   10~15%/年と推定していますが、本研究ではホルター心電図での検査がたったの14%しか実施
   されていませんでした。
   塞栓源不明脳梗塞発症後の脳卒中予防にDOACが効果があるかは、現在進行中のARCADIA
   研究の結果が待たれるとしています。


私の印象では、1)よりも 2)の論文の方がDOACにやや期待感を持っている感じです。
 
研究の内容は下記のNEJMの日本語版を参照してください。
グラフは下記のPDFに掲載します。





私見)
 塞栓源不明脳梗塞に対して心房細動が想定されDOACの投与の誘惑に駆られますが、DOACの費用
 対効果も勘案するとリスク評価のCHA2DS2-VAScだけでDOACを処方するのも躊躇します。
 結論としては今後の研究が待たれるとします。






1 イグザレルトとアスピリンの再発率の効果比較.pdf

2 塞栓源不明脳梗塞発症後の脳卒中予防に対するリバーロキサバン |.pdf

3 塞栓源不明の脳塞栓症発症後の再発予防のためのダビガトラン.pdf

4 DOAC.pdf













posted by 斎賀一 at 19:31| Comment(0) | 脳・神経・精神・睡眠障害

2019年05月27日

潜在性甲状腺機能低下症の治療ガイドライン

潜在性甲状腺機能低下症の治療ガイドライン
 
Thyroid hormones treatment for subclinical hypothyroidism:
a clinical practice guideline



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 潜在性甲状腺機能低下症の患者さんが多く来院されています。
以前の私のブログでも紹介しましたが(甲状腺機能低下症で検索)、潜在性甲状腺機能低下症とは、
甲状腺刺激ホルモンTSHが高値で、甲状腺ホルモンfreeT4が正常値の場合です。
 今回、雑誌BMJより緊急の提言として、実際的なガイドラインが載っています。
いろいろなガイドラインが提唱されてから、甲状腺治療薬(チラージンS)の処方が増加しているとの事
ですが、そのためのデメリットも懸念され、実際的なガイドラインが提言されました。


アメリカの代表的な学会のガイドラインを紹介しますと

#)NICE,2018より
   ・TSH(甲状腺刺激ホルモン)が10ml単位以上
     70歳未満では治療
     70歳以上では経過観察
   ・TSHが4~10単位では
     65歳未満では症状にて治療
     65歳以上では経過観察

#)ATA,2012より
   ・TSHが10以上で治療
   ・TSHが10以下では、機能低下の症状がある場合、自己抗体陽性、心血管疾患や心不全のある
    場合は治療を考慮

今回のBMJのガイドラインは、更に踏み込んだ実地的なガイドラインです。


纏めてみますと

1) 潜在性甲状腺機能低下症(SCH)に対してのホルモン補充療法(チラージンS)の治療は、原則的に
   控えるべきである。65歳以下でも同様に考えられる。

2) SCHの多くはTHSが4~10の間であり、その値はストレスで変動するし、一過性の事もある。
   特に高齢者では、正常値として評価する事もある。
   一回の測定で評価すべきでなく、経過観察が必要

3) SCHの症状として想定されているのは、倦怠感、筋肉の痙攣(cramp)、寒さに敏感、乾燥肌、
   声の変化、便秘などが挙げられています。
   しかし、これらの症状は特異的でなくSHCを有していない人でも認められ、チラージンの治療をしても
   必ずしも好転するかのエビデンスはない。

4) 色々なガイドラインに従えば、TSHが10以上で治療としているが、本ガイドラインではTSHが
   20以上としています。
   20以下では経過観察

5) 本ガイドラインが適応されない除外項目(つまり下記の事項では治療も考慮)は
    ・妊娠可能な女性 (TSHとTPO抗体の測定が必要) 
    ・TSHが20以上でfreeT4が正常 (この場合は顕性甲状腺機能低下の可能性がある。)
    ・症状がある場合 (しかしこの場合も明白なエビデンスは無い)
    ・30歳以下の若い人
    ・妊婦
    ・既にチラージンを服用中の場合





私見)
 私なりに理解しますと
  ・SCHの患者でTSHが20以下では、経過観察か再検
   (つまり基準が20以上に引き上げられています。)
  ・但し妊婦や妊娠希望の女子、又は30歳以下ではその限りでない。
   (妊婦の場合のストラテジーは、以前の私のブログをご参照ください。)





T甲状腺低下.pdf

2 妊婦の治療戦略.pdf

3 橋本病と無痛性甲状腺炎について.pdf












posted by 斎賀一 at 19:46| Comment(0) | 甲状腺・内分泌

2019年05月24日

女性の再発性尿路感染症ガイドライン・2019年版

女性の再発性尿路感染症ガイドライン・2019年版
 
Recurrent Uncomplicated Urinary Tract Infections
in Women: AUA/CUA/SUFU Guideline (2019)
 


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 アメリカの泌尿器学会(AUA)より、合併症のない女性における再発性尿路感染症(rUTI)のガイドラインが発表になっています。
16の声明文と其々のコメントから成り立っています。


簡単に纏めてみました。

1) statement 1
   病歴の聴取と骨盤内疾患の検査を十分に行う必要がある。

2) statement 2
   尿培養と症状をカルテへ記載することは必須
   (rUTIとは、6カ月間で2回以上又は1年間で3回以上の尿培養陽性と、急性膀胱炎症状を有する事
    と定義されている。 
    中間尿の採取が必要。細菌量の基準は無症候性、特に閉経前の女性のコンタミ(混入)と区別する
    必要があるため一定量を基準とするが、症候性の場合は細菌量が少量でも診断してよい。)

3) statement 3
   コンタミが疑われたら、繰り返して複数回の尿培養検査が必要
   場合によりカテーテル採尿も考慮する。

4) statement 4
  一般的にはrUTIの患者に膀胱鏡検査は必要ない。

5) statement 5
   急性膀胱炎症状の治療を開始する前に尿沈渣、尿培養、感受性検査を実施すべき。

6) statement 6
   急性症状を有するrUTIに対して、時に尿培養を待たずに患者主導で治療薬の服用を提供する事も
   可能です。
   (ある種の状況では、患者が診療を受けずに短期の抗生剤服用の決定を許可する事もあります。
    ある条件とは、旅行中、性交渉、長期の出張、下痢、便秘などです。
    一回の抗生剤の服用と短期の服用とで、予後に差はありませんでした。
    その場合でも以前の尿培養の結果は重視すべきです。)
  
7) statement 7
   rUTI患者に対して無症状の場合には、定期的な尿検査や培養をしなくても良い。
   (但し、妊婦や今後、侵襲的な尿路系の検査をする人は、rUTIの既往があれば尿培養を含めた
    尿検査はしておく必要がある。)

8) statement 8
   尿に細菌が陽性でも、症状が無ければ治療の必要はない。
   (無症候性で細菌尿の治療効果に対しては、エビデンスが無い。
    但しストルバイト結石(リン酸マグネシウムアンモニウム結石)がある場合は、治療も選択肢の
    一つ)

9) statement 9
   第一選択薬は、バクタ、ホスミシン、ニトロフラントイン(日本では未承認)
   (私見としてのまとめ ; 短期療法と長期療法がありますが、概ね効果は同等の様です。
    短期は3日間、長期は7~10日間のようです。セフェム系は効果が劣性で、一番効果が優勢なのは
    キノロン系のシプロキサンとガチフロでした。セフェム系とキノロン系は第二選択薬となります。)

10) statement 10
   rUTI患者の急性膀胱炎治療は、出来るだけ短い治療期間(一般的には7日以内)で治療すべき。
   (短期は3~6日間、長期は7~14日間を意味します。
    短期療法での細菌学的不成功の危険率は短期経過でみますと1.37、長期経過でみますと1.43と
    長期療法より劣性ですが、臨床的な意味合いでは統計学的に差はありませんでした。
    副作用は明らかに、3日療法の短期療法の方が軽減されています。
    よって出来るだけ短期療法に努めるべきだが、長くても7日以内を推奨)

11) statement 11   
   尿培養で耐性菌が検出された場合は抗生剤の短期の点滴療法(一般的には7日以内)も視野に
   入れる。
   (点滴療法を実施する前にホスミシンが感受性を有するかを検討する価値がある。)

12) statement 12
   rUTI患者の将来の尿路感染症のリスクを軽減するために、抗生剤の予防投与を、リスクと利点を
   考慮して決定する。

     ○本院での処方例として
      ・ケフレックス(250mg)を 1錠/日を連日
      ・ホスミシン(500mg)を 6錠/日を10日毎に服用(?)
     ○性行関連としては前後に
      ・ケフレックス(250mg) 1錠
      ・バクタ 1錠

13) statement 13
   代替医療としてクランベリーも考慮

14) statement 14
   症状が消失(asymptomatic)ならば治療後の尿検査はしなくてよい。






私見)
 次回は、ホスミシンに関して再度勉強しブログします。








Recurrent Uncomplicated Urinary Tract Infections in Women_ AUA_.pdf















posted by 斎賀一 at 20:55| Comment(0) | 泌尿器・腎臓・前立腺