2019年04月30日

メトグルコ(糖尿病治療薬)について 2019年版

メトグルコ(糖尿病治療薬)について 2019年版
 
Metformin in 2019



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 メトグルコは糖尿病治療薬の第一選択薬です。
安価で低血糖の副作用も少なく、体重の増加もありません。良いとこずくめです。

 雑誌JAMAにメトグルコに対する今日的な総説が載っていますので纏めてみました。


1) メトグルコはビグアナイド系の薬剤です。
   1950年代から使用されていましたが、乳酸アシドーシスの副作用の懸念から暫く第一線から退いて
   いました。
   しかし、1995年からはその心配は限定的で、ルネッサンスとまで言われるまでに復活しています。

2) メトグルコの作用機序は、動物実験では肝細胞のミトコンドリアにおける糖新生を抑制するためと
   言われていますが、人体では明白ではない様です。
   その作用は多面的で(pleiotropic)インスリン抵抗性の改善や腸管内の作用も推定されています。

3) 2型糖尿病に効果があり、低血糖や体重増加を誘導しないとされています。
   しかも心筋梗塞の危険率も7%減との研究結果もありました。一方で死亡率が増加したとのマイナス
   の報告も、依然としてありました。
   何れも研究の規模は少なく、上記の見解は現在では否定的です。
   妊娠糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にも有効との報告があります。
   癌予防にも繋がるとのデータがありますが、未だ臨床的には証明されていません。

4) メトグルコの多量処方では乳酸アシドーシスが懸念されますが、通常量では心配がないようです。
   但し肝障害、心不全、慢性腎疾患の場合には注意が必要です。

5) 最近のアメリカのFDAでは、腎機能低下(CKD)の場合にはeGFRが45以上あれば導入が可能で、
   30以上までは継続処方も許可されています。
   メトグルコは肝代謝ですので腎蔵ではそのまま排泄され、しかも腎毒性はありません。従って代償性
   の肝不全、心不全ならクリアランス(浄化)があり、十分な管理の基では安全性はあるとしています。

6) ヨードの造影剤を用いるCT検査や動脈撮影は、腎障害の危険があるために事前にメトグルコの服用
   を中止するようにFDAは勧告しています。
   特にeGFRが30以下、心不全や肝不全の既往歴、アルコール中毒者は対象です。

7) 下痢や嘔吐のある場合には(シックデイ)、副作用の出現が25%増加すると言われています。

8) 500mg/日から漸増していきます。
   2,550mg/日までは血糖降下作用は用量依存性です。
   しかし消化器症状の副作用がありますので、一般的には2,000mg/日までです。
   副作用が出るようならば、患者さんとの話し合いで至適量を決める必要があります。   

9) 30年前の研究では、メトグルコは心血管疾患にも有効との事でしたが、最近ではSGLT-2阻害薬が
   それに代わりつつあります。
   しかしSGLT-2阻害薬と言えども、メトグルコに対しての追加療法(add on)の研究で、単独では
   その価値は不透明です。
   但しメトグルコで不耐性の場合にはSGLT-2阻害薬や、どっこいSU剤も登場となります。




  
私見)
 メトグルコは糖尿病の第一選択薬です。安価で副作用も稀な優れた薬剤です。
 しかし、其々の患者さんに合った薬剤量を決めていかなくてはなりません。
 造影CTや吐き気、食欲低下などの場合には服用を中止しなくてはなりません。
 患者さんと向きあうべき薬の一つです。




メトグルコ.pdf









posted by 斎賀一 at 21:49| Comment(0) | 糖尿病

2019年04月27日

心室性不整脈と自律神経障害

心室性不整脈と自律神経障害

Nocturnal ventricular arrhythmias are associated with the severity of
cardiovascular autonomic neuropathy in type 2 diabetes



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 糖尿病患者で、心血管性の自律神経障害が高度の場合は、夜間の心室性不整脈(心室性期外収縮)
の頻度が高くなるとの報告が中国南京の研究者よりありました。


 1) 心血管性自律神経障害(CAN)とは、起立性低血圧、呼吸性脈拍変動、起立性脈拍変動、
    バルサルバ手技による脈拍変動などです。

 2) CANが確定してからホルター心電図検査を実施しています。
    CANの程度を、無し、早期、確定、進行性の4段階に分類しています。

 3) CANが無い場合は、夜間心室性不整脈が18.6%、早期が29.9%、確定が36.2%、
    進行性が60%でした。
    CANが増大すると、夜間不整脈の危険率は1.765でした。

 4) 夜間不整脈は、心血管疾患の重症化と夜間の死亡率と関連があると言われており、
    CANと夜間不整脈、特に心室性期外収縮の診断が重要としています。



私見)
 今後、特に糖尿病患者さんでの心電図検査時に立位での追加測定をする事と、ホルター心電図では、
夜間での心室性期外収縮の頻度に注目する必要がありそうです。



Nocturnal ventricular arrhythmias are associated with the severity of cardio.pdf







posted by 斎賀一 at 16:23| Comment(1) | 循環器

2019年04月25日

肝細胞癌

肝細胞癌
 
Hepatocellular Carcinoma
  n engl j med 380;15 nejm.org April 11, 2019


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 雑誌NEJMに肝細胞癌の総説が掲載されていましたので、ブログにしてみました。


1) 以前はB型肝炎が主な原因でしたが、輸血の改善とB型肝炎ワクチンの普及により、主流はC型肝炎
   に移行しました。更に最近では経口薬のDAAの導入によりC型肝炎も治癒(SVR)の時代となり、
   肝細胞癌の原因は様変わりしています。
   ウイルス性肝炎に代わり非アルコール性肝疾患(NAFLD)、及びそれに関連した肥満、糖尿病が
   注目されています。

2) 遺伝子のDNAに変異が起こり、前癌状態の異型結節(dysplastic nodule)が発生する。
   そこから肝細胞癌に進展する。
   TERTpromoterの変異が60%関与していると言われている。
   しかしDNA変異は多岐にわたり、其々の頻度が低いために治療や診断、予後判定には未だ実用化
   されていない。

3) 一般的には炎症、線維化、肝硬変から肝細胞癌は進展するが、B型肝炎の様に肝硬変を経ずに肝
   細胞癌が発生する事がある。  これが増殖過程(proliferation class)である。
   もう一つが非増殖過程(nonproliferation class)でC型肝炎に代表されるように肝硬変を経て
   から肝細胞癌となる。
   (エコーで肝硬変が無くても肝細胞癌の発生する過程がproliferation class)
   Proliferationの方が進行度は悪性で、αプロテインと関連している。
   Nonproliferationはその細胞は遺伝子的、免疫応答が正常肝細胞に近似している。

4) エコー検査は6カ月毎が基本であるが、診断の感度は47~84%で特異度は90%である。
   正常肝細胞や、良性の異型結節の血液供給は門脈系だが、悪性の肝細胞癌では変移して動脈系と
   なる。  これを利用した造影CTとMR検査により、動脈相と静脈相を区別して鑑別する事が出来る。
   1cm以上の腫瘍では、その診断感度は66~82%で特異度は90%以上です。
   確定診断は生検です。





私見)
 本論文のグラフの方が分かりやすいので下記のPDFを参照ください。
 注意深いエコー検査が必要です。下記の文献より今一度勉強しましょう。



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          書籍;腹部エコーの基礎;秀潤社より






1 肝細胞癌.pdf

2 腫瘍性肝疾患の超音波診断.pdf

3 肝腫瘤の超音波診断基準.pdf

4 腹部超音波検診判定 マニュアル.pdf














posted by 斎賀一 at 14:11| Comment(0) | 肝臓・肝炎