肺炎球菌ワクチン雑感
2019年版のワクチン・スケジュールがアメリカより発表になりブログしましたが、肺炎球菌ワクチンに
関してはあまり変化がないようです。
今年度中に日本でも肺炎球菌ワクチンに関しての改訂があるとの事ですが、それに先立ちまして私の
認識している事を纏めておいた方が、現場での混乱を若干解消出来るものと思いQ&A形式でブログ
します。
また参考にした文献を下記のPDFに羅列しました。
Q1) 肺炎球菌ワクチンは2種類ありますが、どのように違うのでしょうか。
A1) 肺炎球菌が病原性を強く発揮する主な原因は、菌体を覆う厚い莢膜(多糖体の膜)の存在です。
莢膜がバリアとなり、貪食細胞などによる貪食作用に対して強い抵抗性を示します。この強い
抵抗性は、肺炎球菌感染症が短時間のうちに重症化しやすいことにも関連しています。
この莢膜の抗原性の違いにより、肺炎球菌は90種類以上に分類されます。
ナンバーが小さい抗原型、つまり血清型のほうがヒトに対する感受性が高いと言われています。
ワクチンの接種により産生された抗体が莢膜に結合することで、肺炎球菌は貪食されます。
肺炎球菌ワクチンには莢膜多糖体を精製し、そのまま抗原として使用した多糖体ワクチン
(ニューモバックス;PPSV23)と、精製した莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させた結合型
ワクチンの2種類があります。(プレベナー;PCV13)
ニューモバックスは23種類の莢膜多糖体を含むので、23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンとも
呼ばれ、国内の侵襲性肺炎球菌感染症患者から分離された肺炎球菌のうち、およそ70%をカバー
していました。
プレベナーは13種類の莢膜多糖体を含むので13価肺炎球菌結合型ワクチンとも呼ばれ、国内の
侵襲性肺炎球菌感染症患者から分離された肺炎球菌のうち、およそ48%をカバーしています。
ニューモバックスは主に液性免疫のみを活性しますので、何回接種してもブスター効果はありま
せん。しかも咽頭の肺炎球菌における細菌叢の血清型に変化を起こしにくいと言われています。
プレベナーはTリンパ球に貪食され易いジフテリアトキソイドと、莢膜多糖類を接合させたワクチンで
細胞免疫をも活性化しますので、ブスター効果や長期の免疫維持が可能です。
しかし粘膜の抗体を刺激して菌の増殖を抑制しますので、キャリアにおいては咽頭の肺炎球菌に
おける細菌叢の血清型に変化をもたらせます。
現在、日本では乳幼児がプレベナーで、65歳以上がニューモバックスを使用しています。
Q2) 65歳で23価のニューモバックスを接種しました。再接種は何時ごろが良いのでしょうか。
A2) 5年以内だと副反応も多いかもしれないとの事で、間隔を5年以上としています。
効果の衰退の面からも、一般的には5年過ぎたらもう一度ニューモバックスを接種するようになって
いますが、以下の点で異なる見解もあります。
*uptodateによりますと、ニューモバックスの効果は10年近くあり、再接種は5〜10年の間に
行えば良いとしています。
*ニューモバックスに含まれている23価が等しくその抗体を減少するのでなく、マチマチなため
予測が不可能との事です。
Q3) 65歳以上の2回目の接種は13価のプレベナーを勧めているとネットに書かれていましたが、混乱
してしまいます。
A3) 上記にも記載しましたが、結合型ワクチンは長期に亘る免疫効果がありますが、キャリアにとっては
細菌叢の血清型に変化が起きてしまいます。
以前、小児に適応した7価ワクチンの接種により却って血清型の変化が起こり中止となったため、
現在では13価を使用しています。
一部論文では13価でもキャリアの血清型の変化を報告しています。
麻疹ワクチンに代表されるウイルス感染症に対するワクチンとは異なり、肺炎球菌ワクチンは細菌
感染症に対するワクチンです。
私個人的には以下の点で注意をしています。
*肺炎球菌は100種類ほどあるので、抗体の獲得が十分なのか。
*血清型が変化しないか。 特に結合型において
*肺炎球菌ワクチンを接種する意義は、本人が感染症に罹らない事、他人に感染させない事
ですが、そもそも健康な人でもある種の細菌叢をキャリアーとして保持しており、ワクチンの
接種により本人、または他者に対してどの様な影響が生じるか予測が出来ない点です。
しかも国や地域により細菌叢は異なります。
最近医学情報サイトのhealioより [PCV13 vaccination highly effective but complicated by serotype replacement] の記事が載っていました。
示唆に富む見解ですので一部紹介します。
*「あなたが今週末に孫と抱き合いたいと思った時、あなたは肺炎球菌ワクチンの何を接種して
いるか、また、孫は既にワクチンを接種しているかを知らなくてはならない。」
*「あなたはニューモバックスを接種していても何の変化もないかもしれないが、プレベナーを接種
する事によりあなた自身が変化して、それはもしかしたら13価の菌が完全に消滅していて、それに
よる感染症は起きないし、孫にも感染症を起こさせないかもしれない。」
*「インフルエンザ後の2週間は健康な人でも肺炎球菌感染症を併発し易い。それは本人が従来
持っている細菌叢からの感染症である。
つまり、結合型を接種する事により13価の細菌叢を自身の体から駆除して、更に多糖体のワクチン
で周囲からの23価の細菌叢の感染を防ぐことが、65歳以上のあなたには必要である。」
Q4) 多方面の文献をコピペしてくれて有難うございます。ただ残念ながら明日には忘れてしまいそうな
内容です。結局65歳でニューモバックスを接種し、5年が経過した70歳の現在の私は何を接種
したら良いのでしょう。
A4) 個人的な考えでは、70歳までには今度はプレベナーを接種して、75歳で再度ニューモバックスを
接種します。更に85歳になったらその時は新しいワクチンが開発されている事でしょう。
Q5) 肺炎球菌ワクチンについて何となく分かりました。それから先生はあまりワクチンに対して乗り気で
ない事も分かりました。
A5) そうではなく、ワクチンにも私にも過剰な期待をしないでもらいたいのです。
ため込んだ論文を下記に掲載します。こちらからも肺炎球菌ワクチンに対して関心がないわけでは
ない事をご理解してください。
1 肺炎球菌ワクチン論文集.pdf
1 論文 肺炎球菌ワクチン 13価.pdf
2 そうだったのか!成人用肺炎球菌ワクチンQ&A.pdf
3 肺炎球菌ワクチン.pdf
13価結合型肺炎球菌ワクチン,65歳以上にも接種可能に:医師のための専門情報サイト[MT Pro].pdf
13価肺炎球菌結合体ワクチンの高齢者への定期接種化の是非を審議/第10回予防接種.pdf
Effectiveness of 23-Valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine Agai... - Pub.pdf
Effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against invas.pdf
Lack of effectiveness of the 23-valent polysaccharide pneumococcal ... - Pub.pdf
Pneumococcal vaccines for older.pdf
プレベナー 高齢者(65歳以上)適応追加のご案内.pdf
高齢者への13価肺炎球菌ワクチンによる有効性の詳細が明らかに/オランダ・CAPITA試験:.pdf
小児用肺炎球菌ワクチン国内導入のインパクト.pdf
肺炎ワクチン『定期接種化』で混乱.pdf
肺炎球菌ワクチン 2回接種.pdf
肺炎球菌ワクチンの構造.pdf
肺炎球菌ワクチンの接種の現状と留意事項.pdf
米諮問委,65歳以上への13価結合型肺炎球菌ワクチンの定期接種を推奨:.pdf