2019年02月09日

便潜血検査と抗血栓薬の関係

便潜血検査と抗血栓薬の関係
 
Effects of Oral Anticoagulants and Aspirin on Performance
of Fecal Immunochemical Tests in Colorectal Cancer Screening



0209.PNG



 抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬)は心血管疾患の血栓予防に必須です。
一方、便潜血反応(免疫法)は食事や薬剤の影響は少ないと考えられていて、大腸疾患の検査に有用であることが証明されています。この抗血栓薬を服用していると、便潜血反応の陽性率が高くなり診断価値が低下しないかが懸念されています。

 雑誌Medical Practiceの今月号に、それに関する記事が載っていました。
結論的には抗血栓薬を服用していてもあまり影響がないので、引き続き抗血栓薬を服用して便潜血検査を実施するようにとのアドバイスです。 (下記にPDFで掲載します。)
 また今月、海外の雑誌のAGAからも同じテーマの論文が出版されましたので纏めてみます。
AGAの論文は、抗凝固薬のDOACも含めた解析です。(最近ではNOACよりもDOACの記載が多くなっていますが同じです。)  ※下記のPDF参照


1) ノルウェイからの報告です。50~74歳の便潜血反応を実施し、陽性者4,908名を登録して引き続き
   大腸ファイバー検査をしています。
   内訳は、少量アスピリン服用が1,008名、ワーファリン服用が147名、DOAC服用が212名、
   何れも服用していない3,541名です。
   直腸結腸癌(CRC)は234名、進行性腺腫が1,305名(日本では殆どが癌と診断します。)を発見
   しています。

2) 抗血栓薬が消化管粘膜障害の出血を助長し、便潜血検査(免疫法)の偽陽性(疾患がないのに
   便潜血検査が陽性となる)に影響しているのかを簡便に理解するには、positive predictive value
   ( 陽性反応適中度と言います。実際に疾病を有する患者/全陽性所見の患者)が良い指標の1つで
   ある。                         ;以上Medical Practiceより抜粋
      
3) 上記のpositive predictive value(PPV)を指標に比較しています。

   ・アスピリン服用者対非服用者
    CRCのPPVは 3.8%対6.4%
    進行性腺腫のPPVは 27.4%対32.6%

  ・DOAC服用者対非服用者
    CRCのPPVは 0.9%対6.8%
    進行性腺腫のPPVは 20.5%対32.4%

   ・ワーファリン服用者対非服用者
    CRCと進行性腺腫のPPVはほぼ同等でした。





私見)
 上記の結果を悪く解釈しますと
 ・本論文の進行性腺腫の幅が日本より広く、出血性の腺腫が少ないのかもしれません。
 ・ワーファリンは出血が無い程、薬効が少ない。
 ・一方DOACでは、CRCのPPVが低い事からも偽陽性が出現する。つまり消化管出血のリスクがある?

 当然ながらDOACを中断してまでも便潜血検査をする事は推奨できません。
 患者さんには次のように説明しましょう。

 「DOACを服用している患者さんは、陽性でも癌は100人中1人の割合だから心配し過ぎないように
  して下さい。だが悪性度の高いポリープは、5人中1人発見できるので、便潜血検査並びにその後の
  大腸ファイバーを予定しましょう。」  (・・・なんだかスッキリしないな。)





Effects of Oral Anticoagulants and Aspirin on Performance of Fecal Immunoche.pdf

抗血栓薬使用中の便潜血検査(免疫法)の意義.pdf




       DOAC.PNG













posted by 斎賀一 at 14:31| Comment(0) | 消化器・PPI

2019年02月07日

ペニシリンアレルギー

ペニシリンアレルギー
 
Evaluation and Management of Penicillin Allergy
  JAMA. 2019;321(2):188-199



0207.PNG



 古くて新しい話題のペニシリンアレルギーについての総説が雑誌JAMAに掲載されていましたので、
纏めてみます。総説なので多岐に亘っています。順不同な感じですが、そのまま記載していきます。


1) IgEを介したペニシリンアレルギーはアナフィラキシー反応を起こしますが稀で、ペニシリンアレルギー
   と思われている人の95%以上がペニシリンを服用できます。つまりペニシリンアレルギー患者の殆ど
   が正確に診断されていないのが実情です。
   2005~2018年間の文献をもとに総説を書いています。それに専門家を交えて、追加検討して
   います。

2) 一般的にペニシリンアレルギーと診断してしまうと、その後の抗生剤の選択に広域スペクトルや
   併用を余儀なくされて、抗生剤の耐性化を助長してしまう。
   ペニシリンを第一選択とする感染症は今でも多いので、その意味でもしっかりした診断が大事
   である。
   特に口腔疾患と、心内膜炎や手術前の予防投与に関しても、ペニシリンは重要な位置にある。

3) ペニシリンアレルギーの診断には、既往歴の問診が最も大事である。
   しかし非専門家による診断のため、ペニシリンアレルギー患者の頻度が多くなる傾向である。
   発疹の原因としては感染性、環境因子、自己免疫性疾患などが含まれるので鑑別する必要が
   ありますが、非専門家にとって発疹を以下の3分類に分ける事が有用です。(下記のPDFを参照)

   ・IgE関連反応(蕁麻疹など)
   ・良性Tリンパ球関連反応
   ・重症反応(TEN、Stevens-Jonson症候群、好酸球増多症など)
    更に、軽症、中等症、重症に分けて対応します。

   一般的には
   ・軽 症 ; 癒合しない発疹、小さな発疹。 蕁麻疹と区別できない事が多い。
   ・中等症 ; 重症でなければ一般的に中等症に分類する。しかも血液病、呼吸器疾患、妊娠などの
           基礎疾患があれば全て中等症になる。
   ・重 症 ; アナフィラキシー反応、繰り返される反応、皮膚テスト陽性、複数のβ-ラクタム系に
           対するアレルギー反応

4) 真のアレルギー反応は約2%である。薬剤チャレンジテストでは10%がノセボー効果である。

5) 軽症の既往歴とは
   アレルギーとは無縁の症状(胃腸症状など)、本人ではなく家族歴のみの場合、発疹を伴わない
   掻痒感、10年間は症状の無い場合が含まれます。
   この場合に皮膚テストが陰性ならば、監視下のもとでチャレンジテストを行う事ができる。
   一般的にはアモキシリンを250mg投与して、1時間観察する。
   チャレンジテストが陰性ならば全てのβ-ラクタム系を処方できる。

6) 中等症の既往歴とは
   蕁麻疹、掻痒を伴う発疹、IgE関連反応の腫脹の既往があるがアナフィラキシー症状は無い場合
   しかし呼吸器疾患、心機能低下、妊婦などは軽症でも中等症に分類する。
   皮膚テストを実施するのが最適だが、陽性の場合はペニシリンアレルギーと判断して、チャレンジ
   テストは行うべきでない。
   皮膚反応が陰性なら95%、チャレンジテストも陰性なら100%、ペニシリンアレルギーは否定
   出来る。

7) 重症の既往歴とは
   アナフィラキシーの既往、皮膚反応陽性、複数のβ-ラクタム系にアレルギー反応を起こす、繰り返す
   アレルギー反応の場合が含まれる。
   この場合は専門家に委ねるべきである。

8) β-ラクタム系間の交叉反応
   約2%に起ると言われている。
   セファゾリンなどは側鎖が異なり、ペニシリンとは交叉反応を起こしにくい。

9) 小児の場合は殆どが感染症関連か、感染症と薬物との複合反応の事が多い。
   よって95%以上はペニシリンを服用できる。しかし小児の場合も充分にペニシリンアレルギーの
   評価をすべきである。

10) 妊婦の場合も皮膚テストは安全であり、積極的に実施すべきである。





私見)
 アメリカの研究者の、慎重な中にも積極的な姿勢には感銘すら感じます。
 本論文の中で最も光を放っているのはsuppleにあるので、JAMAには大変ご迷惑をお掛けしますが、
 下記に掲載いたします。また後日、本院の職員に頼んで日本版を作成しますので、職員の皆さん、ストラ
 テジーを検討しましょう。






JAMAより.pdf

suppl2.pdf

アレルギーペニシリン.pdf








2019年02月06日

インフルエンザ治療薬・ゾフルーザの逆風

インフルエンザ治療薬・ゾフルーザの逆風
          <ツイッター版>




 様々なサイトで、インフルエンザの治療薬、ゾフルーザに対する逆風が散見されます。
まとめて下記に掲載します。


 “ 快速に乗る前には行く先を確認し、事前にグリーン券を登録して週刊誌を買って最後に肝心のトイレ
   を済ませて乗車します。乗ったら途中下車は出来ません。それが開業医と言うものです。”


今シーズンは本院でのインフルエンザに関する治療方針は、下記のままに突き進みます。


タミフル
  一番オーソドックス、適応年齢は生後直ぐから高齢者まで可能
  10代も処方できるが、念のため以前と同様に保護者に承諾者を書いてもらう。
  妊婦にはタミフルを推奨、投与時期は発症早期が最適だが、発症後期でも処方可能

ゾフルーザ
  発症の2日以内が原則 (発熱後2日以内とも解釈する)
  錠剤が服用できる年齢から処方する( 小学生3〜4年生から)

リレンザ
  発症初期が原則、妊婦の予防投与(10日間)に最適

イナビル
  発症初期が原則
  妊婦以外の予防投与(2日間)、その後発症したら直ぐにタミフルに変更





1 ゾフルーザ.pdf

2 ゾフルーザ耐性.pdf

3 ゾフルーザ小児.pdf

4 タミフルDS.pdf









posted by 斎賀一 at 20:11| Comment(1) | インフルエンザ