2019年02月19日

肺炎球菌ワクチン雑感

肺炎球菌ワクチン雑感




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 2019年版のワクチン・スケジュールがアメリカより発表になりブログしましたが、肺炎球菌ワクチンに
関してはあまり変化がないようです。
今年度中に日本でも肺炎球菌ワクチンに関しての改訂があるとの事ですが、それに先立ちまして私の
認識している事を纏めておいた方が、現場での混乱を若干解消出来るものと思いQ&A形式でブログ
します。
また参考にした文献を下記のPDFに羅列しました。


Q1) 肺炎球菌ワクチンは2種類ありますが、どのように違うのでしょうか。

A1) 肺炎球菌が病原性を強く発揮する主な原因は、菌体を覆う厚い莢膜(多糖体の膜)の存在です。
   莢膜がバリアとなり、貪食細胞などによる貪食作用に対して強い抵抗性を示します。この強い
   抵抗性は、肺炎球菌感染症が短時間のうちに重症化しやすいことにも関連しています。
   この莢膜の抗原性の違いにより、肺炎球菌は90種類以上に分類されます。
   ナンバーが小さい抗原型、つまり血清型のほうがヒトに対する感受性が高いと言われています。
   ワクチンの接種により産生された抗体が莢膜に結合することで、肺炎球菌は貪食されます。
   肺炎球菌ワクチンには莢膜多糖体を精製し、そのまま抗原として使用した多糖体ワクチン
   (ニューモバックス;PPSV23)と、精製した莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させた結合型
   ワクチンの2種類があります。(プレベナー;PCV13)
   ニューモバックスは23種類の莢膜多糖体を含むので、23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンとも
   呼ばれ、国内の侵襲性肺炎球菌感染症患者から分離された肺炎球菌のうち、およそ70%をカバー
   していました。
   プレベナーは13種類の莢膜多糖体を含むので13価肺炎球菌結合型ワクチンとも呼ばれ、国内の
   侵襲性肺炎球菌感染症患者から分離された肺炎球菌のうち、およそ48%をカバーしています。
   ニューモバックスは主に液性免疫のみを活性しますので、何回接種してもブスター効果はありま
   せん。しかも咽頭の肺炎球菌における細菌叢の血清型に変化を起こしにくいと言われています。
   プレベナーはTリンパ球に貪食され易いジフテリアトキソイドと、莢膜多糖類を接合させたワクチンで
   細胞免疫をも活性化しますので、ブスター効果や長期の免疫維持が可能です。
   しかし粘膜の抗体を刺激して菌の増殖を抑制しますので、キャリアにおいては咽頭の肺炎球菌に
   おける細菌叢の血清型に変化をもたらせます。
   現在、日本では乳幼児がプレベナーで、65歳以上がニューモバックスを使用しています。


Q2) 65歳で23価のニューモバックスを接種しました。再接種は何時ごろが良いのでしょうか。

A2) 5年以内だと副反応も多いかもしれないとの事で、間隔を5年以上としています。
   効果の衰退の面からも、一般的には5年過ぎたらもう一度ニューモバックスを接種するようになって
   いますが、以下の点で異なる見解もあります。

   *uptodateによりますと、ニューモバックスの効果は10年近くあり、再接種は5〜10年の間に
    行えば良いとしています。
   *ニューモバックスに含まれている23価が等しくその抗体を減少するのでなく、マチマチなため
    予測が不可能との事です。


Q3) 65歳以上の2回目の接種は13価のプレベナーを勧めているとネットに書かれていましたが、混乱
   してしまいます。

A3) 上記にも記載しましたが、結合型ワクチンは長期に亘る免疫効果がありますが、キャリアにとっては
   細菌叢の血清型に変化が起きてしまいます。
   以前、小児に適応した7価ワクチンの接種により却って血清型の変化が起こり中止となったため、
   現在では13価を使用しています。
   一部論文では13価でもキャリアの血清型の変化を報告しています。
   麻疹ワクチンに代表されるウイルス感染症に対するワクチンとは異なり、肺炎球菌ワクチンは細菌
   感染症に対するワクチンです。
   私個人的には以下の点で注意をしています。

   *肺炎球菌は100種類ほどあるので、抗体の獲得が十分なのか。
   *血清型が変化しないか。 特に結合型において
   *肺炎球菌ワクチンを接種する意義は、本人が感染症に罹らない事、他人に感染させない事
    ですが、そもそも健康な人でもある種の細菌叢をキャリアーとして保持しており、ワクチンの
    接種により本人、または他者に対してどの様な影響が生じるか予測が出来ない点です。
    しかも国や地域により細菌叢は異なります。

最近医学情報サイトのhealioより [PCV13 vaccination highly effective but complicated by serotype replacement] の記事が載っていました。
示唆に富む見解ですので一部紹介します。

  *「あなたが今週末に孫と抱き合いたいと思った時、あなたは肺炎球菌ワクチンの何を接種して
    いるか、また、孫は既にワクチンを接種しているかを知らなくてはならない。」
  *「あなたはニューモバックスを接種していても何の変化もないかもしれないが、プレベナーを接種
    する事によりあなた自身が変化して、それはもしかしたら13価の菌が完全に消滅していて、それに
    よる感染症は起きないし、孫にも感染症を起こさせないかもしれない。」
  *「インフルエンザ後の2週間は健康な人でも肺炎球菌感染症を併発し易い。それは本人が従来
    持っている細菌叢からの感染症である。
    つまり、結合型を接種する事により13価の細菌叢を自身の体から駆除して、更に多糖体のワクチン
    で周囲からの23価の細菌叢の感染を防ぐことが、65歳以上のあなたには必要である。」

  
Q4) 多方面の文献をコピペしてくれて有難うございます。ただ残念ながら明日には忘れてしまいそうな
   内容です。結局65歳でニューモバックスを接種し、5年が経過した70歳の現在の私は何を接種
   したら良いのでしょう。

A4) 個人的な考えでは、70歳までには今度はプレベナーを接種して、75歳で再度ニューモバックスを
   接種します。更に85歳になったらその時は新しいワクチンが開発されている事でしょう。


Q5) 肺炎球菌ワクチンについて何となく分かりました。それから先生はあまりワクチンに対して乗り気で
   ない事も分かりました。

A5) そうではなく、ワクチンにも私にも過剰な期待をしないでもらいたいのです。
   ため込んだ論文を下記に掲載します。こちらからも肺炎球菌ワクチンに対して関心がないわけでは
   ない事をご理解してください。







1 肺炎球菌ワクチン論文集.pdf

1 論文 肺炎球菌ワクチン 13価.pdf

2 そうだったのか!成人用肺炎球菌ワクチンQ&A.pdf

3 肺炎球菌ワクチン.pdf

13価結合型肺炎球菌ワクチン,65歳以上にも接種可能に:医師のための専門情報サイト[MT Pro].pdf

13価肺炎球菌結合体ワクチンの高齢者への定期接種化の是非を審議/第10回予防接種.pdf

Effectiveness of 23-Valent Pneumococcal Polysaccharide Vaccine Agai... - Pub.pdf

Effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against invas.pdf

Lack of effectiveness of the 23-valent polysaccharide pneumococcal ... - Pub.pdf

Pneumococcal vaccines for older.pdf

プレベナー 高齢者(65歳以上)適応追加のご案内.pdf

高齢者への13価肺炎球菌ワクチンによる有効性の詳細が明らかに/オランダ・CAPITA試験:.pdf

小児用肺炎球菌ワクチン国内導入のインパクト.pdf

肺炎ワクチン『定期接種化』で混乱.pdf

肺炎球菌ワクチン 2回接種.pdf

肺炎球菌ワクチンの構造.pdf

肺炎球菌ワクチンの接種の現状と留意事項.pdf

米諮問委,65歳以上への13価結合型肺炎球菌ワクチンの定期接種を推奨:.pdf





















posted by 斎賀一 at 21:47| Comment(0) | ワクチン

2019年02月15日

降圧薬のオルメテックの消化器症状;稀ながら

降圧薬のオルメテックの消化器症状;稀ながら
 
Olmesartan Associated Enteropathy: A Rare Underdiagnosed
Cause of Diarrhea and Weight Loss



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 以前より降圧薬・ARBのオルメテックに、稀ながら下痢症状の副作用がある事が報告されていました。
病理的にはcollagenous colitisとして注目されています。
他の薬剤関係としては、胃酸分泌抑制剤のPPIや鎮痛薬などとの因果関係も指摘されています。
 今回、降圧薬のオルメテックに関する症例報告がありましたので、再度注意したいと思いブログに
しました。


1) 2012年のMayo Clinicからの報告が最初のようです。その後は症例報告も数例で、一般的には
   殆ど心配はないとの見解でした。

2) 症例は59歳、男性で3週間にわたる嘔吐、下痢症状が続き体重減少を伴って医療機関を受診して
   います。
   血液生化学検査では脱水の所見以外特に異常はなく、便培養でも細菌を証明できていません。
   大腸ファイバー検査でも特に所見を認めていませんが、病理検査においてlymphocytic colitis
   の報告がありました。 これはcollagenous colitisと同義です。
   胃カメラ検査でも、十二指腸に同様の病理変化を認めています。

3) オルメテックを休薬して直ぐに下痢症状は改善しています。

4) 文献的な検索では、オルメテックの服用後に症状が発現するには、数か月から5年と幅が広いので
   すが、平均では3年と意外に長い感じです。
   内視鏡所見は肉眼では明白でなく、病理で粘膜下のコラーゲン様物質の沈着、リンパ球浸潤、十二
   指腸の絨毛の平定化を認めています。
   原因は不明ですが、オルメテックによる粘膜のアポトーシスが関与しているものと推定しています。
   他のARBでも報告があるとの事です。

5) 治療は特になく、休薬が最良とのことです。







私見)
 オルメテックは優れた薬剤です。本院でも汎用しています。

 下記に書籍  「薬の比較と使いわけ」 : 羊土社  の一文を掲載します。


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 以前、ある循環器の教授にお聞きした時に、オルメテックが一番効果的なARBとご教授していただき
ました。オルメテックは他のARBと異なり、ダブルチャンネルが特徴との事もメーカから教えてもらって
います。その事とこのような事例が関係しているのでしょうか。
下痢が長引く場合は全てのARBをチェックする必要がありそうです。
 尚、以前の文献と雑誌 「胃と腸の特集号」 からの序論及び用語集を失礼いたしました。





1 オルメテック下痢.pdf

2 オルメテック胃腸炎.pdf

3 オルメテック.pdf

4 添付文書改訂:オルメサルタンの下痢.pdf

5 胃と腸 序論.pdf

6 胃と腸 collagenous colitis.pdf










posted by 斎賀一 at 21:53| Comment(0) | 循環器

2019年02月14日

抗生剤のアレルギーに対する問診票

抗生剤のアレルギーに対する問診票
     <業務連絡用>




 以前の私のブログで、雑誌JAMA記載のペニシリンアレルギーに対する問診票を紹介しましたが、
それを本院の看護師が本院用に作成し直してくれました。
なかなかの出来栄えで満足しています。
医療従事者は人に感謝されることが何よりです。

今後、職員の皆さんと本院の身の丈に合った皮膚テストとチャレンジテストを作成したいと思いますので、協力お願いします。
 尚、上記の問診表は、患者さんが抗生剤アレルギー歴があると申告された場合に行う予定です。
新たにペニシリン系を処方する場合に関しては、今後ストラテジーを作成しましょう。





本院用 抗生剤アレルギー歴.pdf

1 suppl2.pdf

2 JAMAより.pdf