2019年01月29日

糖尿病治療薬SGLT-2阻害薬のフォシーガと心血管転帰

糖尿病治療薬SGLT-2阻害薬のフォシーガと心血管転帰
 
Dapagliflozin and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes
  n engl j med 380;4 nejm.org January 24, 2019



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 U型糖尿病はアテローム性心血管疾患、心不全、慢性腎疾患(CKD)に対してリスク因子です。
しかしU型糖尿病においては、心不全と冠動脈疾患とはそれぞれが独立した疾患と捉える必要が有るとの事です。とはいえU型糖尿病における心不全の治療に関しての明白なエビデンスはありません。
一見独立した疾患のアテローム性心血管疾患、慢性腎疾患、心不全は総合的な見地からの治療戦略が重要です。

 今回雑誌NEJMに、糖尿病治療薬であるフォシーガの心血管疾患の効果について掲載されていましたので纏めてみました。 (DECLRE-TIME58)


1) U型糖尿病患者でアテローム性心血管疾患またはそのリスクを有する例を、フォシーガを投与する
   群とプラセボを投与する群に、無作為に割り付けました。
   登録の基準は40歳以上のU型糖尿病、ヘモグロビンA1cが6.5~12.0、腎機能のGFRが60以上、
   アテローム性心血管疾患のリスクを2つ以上有する人か、(高血圧、脂質異常症、スタチン等服用、
   喫煙)既にアテローム性心血管疾患を有する人(虚血性心疾患、虚血性脳血管疾患、末梢動脈
   疾患)です。
   下記のPDFのsuppleをご参照ください。
   主要転帰は、MACE(主要有害心血管イベント;すなわち心血管死亡・心筋梗塞・虚血性脳卒中)
   心不全としています。
   副次的転帰は、腎転帰(腎機能のGFRが40%以上低下して60mL/分未満になる、新規末期腎不全
   の発生、腎臓または心血管が原因による死亡)と、全死因死亡としています。

2) 17,160 例を中央値4.2年間追跡し、評価しました。
   内訳は6,974名(40.6%)が既にアテローム性心血管疾患を有する人、10,186名(59.4%)がアテ
   ローム性心血管疾患のリスクを2つ以上有する人です。

3) 結果は、フォシーガによって MACE 発生率は低下しなかったが、(フォシーガ群 8.8% 対 プラ
   セボ群 9.4%、ハザード比 0.93、統計学的に信頼区間が広いために、偶然の結果かもしれないと
   しています。)心血管死亡または心不全による入院の発生率は低下した。(4.9%対5.8%、ハザード
   比0.83)
   詳細は下記のPDFのグラフをご参照ください。
   腎イベントはフォシーガ群の 4.3%とプラセボ群の 5.6%で発生し、(ハザード比 0.76)
   糖尿病ケトアシドーシスの発生頻度は、フォシーガ群のほうがプラセボ群よりも高く、(0.3%対
   0.1%)レジメンの中止となっています。
   結論として、フォシーガ治療によってMACEの発生率は、プラセボと比較して高くも低くもならなかった
   が、心血管死亡または心不全による入院の発生率は低下した。

4) 考察
   経過中に1,500人がMACEを発症し、900人が死亡しています。
   ベースラインでは、殆どの人が心不全の既往はありませんでした。その事からも、フォシーガには
   新たな心不全の予防効果があったことを証明しています。
   更に心不全に特化した研究も進行中との事です。
   同様にベースラインでのCKDや心血管疾患の有無に関わらず、経過において腎機能の悪化は予防
   出来ています。尿細管-糸球体のフィードバックの改善が関与しているとしています。
   以前発表のEMPA-REG研究と異なる点は、本研究では腎臓の保護作用を特定的に見るために
   腎機能低下患者(GFRが60以下)を除外している点です。
   副作用としての下肢切断、脳卒中、骨折の発生はプラセボと同等でした。
   ケトアシドーシスは増加していましたが、頻度は0.1%/年と極稀でした。





私見)
 フォシーガには心不全や腎不全の予防効果がありそうです。
 他のSGLT-2阻害薬も同様かと思いますがその点は識者に任せるとして、稀ながらと言えどもケトアシ
 ドーシスには注意してまいります。
 (職員の皆さん、ケトアシドーシスの検査に関しては、以前のブログを参照してください。)
 取りあえず本院では、60歳以上のU型糖尿病で高血圧を合併、し心負荷(IVCDが増大傾向)が心配
 な患者さんには、フォシーガも選択枝でしょうか。





論文より.pdf

nejmoa1812389_appendix.pdf










posted by 斎賀一 at 22:14| Comment(1) | 糖尿病

2019年01月28日

夕食はやっぱり軽めがいい

夕食はやっぱり軽めがいい
 
Energy intake at different times of the day: Its association
with elevated total and LDL cholesterol levels



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 夕食が高カロリーだと栄養分が体内に蓄積されてしまうと、以前より指摘されていました。
それを証明する論文が掲載されています。
台湾からの報告です。


纏めてみますと

1) 1,283人の健康な人を対象にしています。
   24時間の食物摂取量のデータを回収し、それを炭水化物、蛋白、脂肪に分けて計算し調査して
   います。

2) 食事の時間帯は6分類としています。
   メインの食事としては、午前中(午前5時から午前9時29分まで)、正午(午前11時30分から
   午後1時39分まで)、夜間(午後5時30分から午後8時30分)
   軽食としての追加の3つの時間帯が含まれています。
   午前中(午前9時30分〜午後11時29分)、午後(午後1時30分〜午後5時29分)及び
   夜間(午後8時30分〜午後4時59分)

3) 回収データの解析後に1~3週間して受診し、空腹時の中性脂肪、総コレステロール、HDL、LDLを
   測定しました。
   結果、コホートにおける平均エネルギー摂取量は、午前中に385 kcal(95%CI、353-416)、
   正午に522 kcal(95%CI、483-561)、夜は557 kcal(95%CI、516-597)でした。
   軽食に関しては、午前の軽食が123 kcal(95%CI、106-140)、午後の軽食は171 kcal
   (95%CI、141 200)、夜食は169 kcal(95%CI、139-200)

4) 結果として
   夜間に100kカロリー増加する毎にLDL-コレステロールは0.94mg増え、特に脂肪が100kカロリー
   増加する場合、LDL-コレステロールは2.98mg増えます。
   一方夜間の食事の100kカロリーを朝か正午に移すと、それぞれ、LDLは5.21mg、3.19mg減少
   しました。

5) 筆者は、コレステロールが夜間に栄養分から代謝形成されるためと説明しています。






私見)
 台湾からの報告ですので、食生活が若干、日本と異なるかもしれません。
 軽食つまり間食が多い気がします。飲茶の習慣でしょうか。
 一日全体での総摂取カロリーは、約2,000kカロリーです。
 又、本論文では研究期間が短い気もします。LDLに対する食事の影響はかなり時間を要すると思い
 ますが、 短期間でも結果が出るとも言えます。
 欧米では夜間は少ないと聞いていますが、特に日本では脂質異常症の患者さんに食事を摂る時間帯
 の指導も必要な様です。






コレステロール 食事 HL.pdf















posted by 斎賀一 at 19:39| Comment(1) | 脂質異常

2019年01月26日

心筋梗塞と急性感染症

心筋梗塞と急性感染症
 
Acute Infection and Myocardial Infarction
   n engl j med 380;2 nejm.org January 10, 2019



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 雑誌のNEJMに急性感染症と心筋梗塞の総説が出ています。
20世紀初頭より、インフレエンザと心筋梗塞との関係は知られていましたが、心筋細胞の検査技術の
向上により、他の感染症との関連性も最近の10年間で詳細に解明されています。
 最近のデータによると、インフルエンザでは6倍、RSウイルスでは4倍、他の呼吸器感染ウイルスでは
3倍もの危険率で心筋梗塞が発症するとの事です。肺炎球菌による肺炎の場合には、心筋梗塞が7~8%発症するとの報告もあります。尿路感染症や菌血症の場合も、短期的なリスクとなります。
急性感染症は短期、中期、長期に亘り心筋梗塞に悪影響を及ぼす様です。
この事からも長いスパンで警戒しなくてはならない様です。


以下に纏めてみますと

1) 肺炎の影響は10年間も継続する場合があります。
   感染症の重症度と継続性は関係があるとの事です。
   下記のPDFのグラフをご参照ください。

2) 機序
   心筋梗塞は冠血管の閉塞が原因であるT型と、酸素供給の不足によるU型に分類されます。
    (実際は区別がつけにくいのが現状です。)
   ・T型では元来、冠動脈のプラークに炎症性細胞が集簇しています。
    心筋梗塞が炎症性疾患と捉えられる所以です。そこに急性感染症が加わると、炎症に関与する
    サイトカインと言う物質が全身の血液中に増加します。その増加したサイトカインがプラーク内の
    炎症性細胞を活性化させ、プラークの増悪や破綻が生じます。
    インフルエンザや他の呼吸器感染のウイルスは、血小板の活性化を促します。
   ・U型では頻脈により拡張期充満時間の短縮となり、それが冠動脈の血液循環を危険にさらす事に
    繋がります。
    肺炎は全身の低酸素をも引き起こします。このケースでは感染の影響は短期的です。
   ・動物実験ですが、直接的に肺炎球菌はその毒素が心筋細胞を傷害し、伝導系に影響して、心電図
    変化をもたらすとの事です。
   ・感染症による「サイトカインの嵐」が起こり、特に若い人では急性の心不全に繋がります。

3) ワクチンの効果
   インフルエンザワクチンは、リスクを36%軽減すると言われています。
   一方で肺炎球菌ワクチンの効果は限定的との事です。

4) 急性感染症の際には、血中トロポニンを測定して心筋梗塞を見逃さない事が大事です。
   その他の心疾患である心不全、不整脈、脳梗塞なども急性感染症がリスクとなる事も留意しておく
   必要があります。

5) フラミンガムの心血管疾患のリスクを判定して、事前にスタチン系、少量アスピリンや降圧薬のARBを
   処方しておくことも考慮します。





私見)
 高齢者はインフルエンザからの回復に、1か月も要するとの論文もあります。
 (以前の私のブログを参照ください。)
 フラミンガムによるリスク因子がある人では、急性感染症に罹患したら基礎疾患の増悪を常に想定しなく
 てはならない様です。
 特に冠疾患患者は、インフルエンザ罹患の際にCPKやトロポニンテストを行う準備が必要です。






心筋梗塞と感染.pdf










posted by 斎賀一 at 16:23| Comment(0) | 循環器