2018年12月25日

非ビラン性胃食道逆流症(NERD)における治療抵抗性

非ビラン性胃食道逆流症(NERD)における治療抵抗性
 
Prevalence and clinical characteristics of refractoriness to optimal
proton pump inhibitor therapy in non‐erosive reflux disease
Aliment Pharmacol Ther. 2018;48:1074–1081



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 胃食道逆流症(GERD)と非ビラン性胃食道逆流症(NERD)の関係を示した図は色々と探しましたが
残念ながら「今日の臨床サポート」が一番的確で分かりやすいので、ご迷惑を顧みず借用させて頂き
ます。




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今日の臨床サポート

 GERDの治療はPPI(胃酸分泌抑制薬)が基本で効果もありますが、中には治療抵抗性(refractoriness)の症例もあります。
対策としてはPPIの増量、力価の高いPPIに変更、朝食前での服用に変更等が考えられています。
食道症状があり胃カメラで食道にビランが無い事を確認してPPIを処方し、それでも食道の症状が軽快
しない場合はどの程度か、またその場合にNERD、逆流の過敏症、機能性の胸焼けの割合はどうかを
調べた論文が出ていますので、ブログにしてみました。


1) GERD症状としての 胸焼け、胃内容の逆流、胸痛 : つまりSAP(symptom association
    probability)、及びその他として嚥下障害、ゲップ、心窩部痛、食後不快感、過敏性腸症候群、
   咽喉頭異常感症(globus)、ENT症候群(耳、鼻腔、喉頭の症状)等の症状がある患者573名を
   登録し、更に事前の問診によりPPIで軽快しない患者を92名選んで研究対象としています。
   (VISIT-1)
 
2) このPPI抵抗性の92名に対して、ネキシウム40mg(通常の倍量)を8週間服用し、その後8週間の
   経過観察中(VISIT-2)に食道症状が3回/週以上ある人の60名を更なる治療抵抗性として、食道の
   24時間逆流モニタリングの測定検査をしています。

3) 食道の24時間逆流モニタリング測定検査において、逆流は1日平均で64±17回で、内訳は酸逆流
   が31±11回、混合が26±11回、近位まで逆流が19±11回でした。
   モニタリングで逆流が陽性の定義 : AET(acid exposure time) : 食道内の酸のPHが4以下
   がモニタリング全体で6%以上あるか、4〜6%の場合は逆流が80回以上としています。
   以上によりモニタリングによる分類では
    ・NERD : SAPに関係なくAETがある場合      19名
    ・逆流過敏症 : SAPはあるがAETが無い場合   25名
    ・機能性胸焼け : SAPもAETもない場合       16名      合計60名

4) 下記のグラフのPDFをご参照ください。
   結論的には、PPIを適切に服用すれば治療抵抗性は20%程度で、治療抵抗性の1/3がNERDで
   残りの2/3は機能性か逆流過敏症である。






私見)
 胃カメラで逆流性食道炎が無い事を確かめた後にPPIを服用しても、食道症状が改善されなければ
 殆どが機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群関連疾患を考えなくてはいけない様です。
 特に心窩部痛、食後不快感、過敏性腸症候群の場合は、PPI処方よりも他の治療戦略を考えなくては
 なりません。
 多種にわたる腹部違和感は 「押してもだめなら引いてみな」 でしょうか。 

 全論文がMedscapeに転載されていましたが、内容が不明確のため元文献も調べてみました。
 残念ながら全く同じものでした。図表だけ元文献よりPDFにし、Medscapeの方を下記に添付します。





元文献より.pdf

ppi gerd Refractoriness to Optimal.pdf

患者さん用GERD.pdf

日経より.pdf















posted by 斎賀一 at 22:11| Comment(0) | 消化器・PPI

2018年12月20日

前立腺癌の根治手術と経過観察の29年間の比較

前立腺癌の根治手術と経過観察の29年間の比較
 
Radical Prostatectomy or Watchful Waiting 
in Prostate Cancer − 29-Year Follow-up
 n engl j med 379;24 nejm.org December 13, 2018



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 前立腺癌は男性では胃癌、大腸癌、肺癌に次いで4番目に罹患率の高い癌ですが、最近は増加傾向
です。
  一方で病気が進行していても、その進展は緩徐のため予後は良好であり、治療方針としてもPSA監視療法から根治手術まで多岐に亘っています。

 今回雑誌NEJMより、根治手術と無治療の経過観察とを比較した論文が出ましたので纏めてみました。
現代の医療環境からはやや離れていますが、却ってバイアスが掛からない純粋な(?)前立腺癌の治療効果がみられるとの利点もあります。


1) スカンジナビアにおけるSPCG-4研究からの報告です。
   1989年10月〜1999年2月に、限局性前立腺癌の男性695例を登録し、経過観察群と根治的
   前立腺全摘除術群に無作為に割り付け、2017年まで追跡データを収集しました。
   対象は75歳以下、余命が10年以上あると推測できる人、進行が速く予後が悪い癌に罹患して
   いない人、PSAが50ng以下、組織診断で中等度から高分化、骨転移がない等です。
   根治的手術で再発が確認されたら、アンドロゲン治療を最初に行う。
   骨転移があれば、両群共にホルモン療法を施すとしています。

2) 695名中553名が、2017年までに全死亡(80%)。根治的前立腺全摘除術群の347例中261例
   (71.9%)、経過観察群の348例中292例(83.8%)が死亡しました。
   181名が前立腺癌関連の死亡で(32%)、内訳は71名が根治手術群(19.6%)、110名が経過観察
   群(31.3%)でした。

3) 予後の予測因子としては、根治的前立腺全摘除術を行った男性のうち、被膜外浸潤を認めた男性
   では、被膜外浸潤を認めなかった男性の5倍の前立腺癌死亡リスクに関連し、グリーソンスコア 
   (2〜10で、スコアが高いほど癌の悪性度が高いことを示す。)が7を超えることは、スコアが6以下
   の男性の10倍も前立腺癌死亡リスクに関連していました。

4) 遠隔転移は、根治手術では92名で、経過観察群では150名です。
   23年経過時点では根治手術で26.6%、経過観察群で43.3%の遠隔転移でした。

5) 結論的には、23年の経過観察でみますと根治手術により寿命が2.9年間長くなり、全死亡1例を
   予防するための治療必要数は8.4例でした。
   根治手術による絶対的な利益は、全死亡率及び疾患特異的死亡率共に23年間の期間で2倍増加
   していました。

6) 現在では前立腺癌の診断は格段の進歩を遂げています。
   PSA健診の普及、治療の選択肢の向上、生検の前のMRI検査、遠隔手術(ダビンチ)などです。
   しかし、本論文では前立腺癌の本来の臨床的治療の性質を示唆するものとして、現在の治療選択を
   する際に、重要な指標と成り得るとしています。





私見)
 本論文においては、経過観察をするよりも根治手術を選択する方が2倍の効果ですが、本疾患が予後
 の良い事を考えると8人に1人が助かった事になります。しかも余命が3年長くなる程度でした。
 現在はPSA厳重管理の時代ですし、治療も進歩しています。もしかしたら根治手術と厳重管理の差は
 接近しているかもしれません。

 尚、私の以前の前立腺癌に関連する下記ブログも参照し、グリーソンスコア等を調べてください。
 下記に参考文献も掲載します。
 近々、前立腺癌の総説的なブログも計画しています。



   ○ 早期前立腺癌の根治手術と経過観察(積極的監視)の比較  (2017-7-24)
   ○ 前立腺癌に対する新しいガイドライン  (2017-01-13)
   ○ 限局性前立腺癌に対する10年間の追跡調査  (2016-10-31)






前立腺癌論文より.pdf

前立腺がんとかかりつけ医.pdf








posted by 斎賀一 at 13:13| Comment(1) | 泌尿器・腎臓・前立腺

2018年12月17日

DOAC(抗凝固薬)はポリペクトミーの際に安全?

DOAC(抗凝固薬)はポリペクトミーの際に安全?
 
Patients Prescribed Direct-acting Oral Anticoagulants
Have Low Risk of Post-Polypectomy Complications



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 大腸ファイバーによるポリープの切除(ポリペクトミー)は、低侵襲性で安全性が確立した治療です。
それでもポリペクトミーによる穿孔は0.93%で、出血は0.1~10%と報告されています。
抗凝固薬のDOACは、ワーファリンに比べて心血管疾患の発生を19%減少させ、消化管出血のリスクも25%まで減らせると言われています。
 今回DOACを服用していてもポリペクトミー後の出血の危険性は増加しないとの論文が、カリフォルニアから出版されました。


纏めますと

1) 2011~2015年に掛けてポリペクトミー又は粘膜切除術(EMR)を実施して、抗凝固薬を服用して
   いる患者11,504名(1590 DOAC、3471 ワーファリン、6443 プラビックス)と抗凝固薬を服用
   していないコントロール群599,983名を検討しました。
   ポリペクトミー後、30日間での消化管出血、心血管疾患、心筋梗塞、入院 を比較しています。

2) 稀でしたが、抗凝固薬を服用している群が明らかに、コントロール群に比して合併症は多く認められ
   ました。(注意点はバイアスとして抗凝固薬を服用する人の方が、合併症のリスクは当然多いと思い
   ますし、本論文ではプラビックスを抗凝固薬として扱っています。)
   尚、少量アスピリンや鎮痛解熱剤(NSAIDs)の服用に関しては調べていません。また、現在服用
   とはポリペクトミー前90日のデターを集め、施行時にも服用している事を確認しています。

3) 消化管出血の頻度はDOACで0.63%、コントロール群で0.2%でした。
   (DOACの区別はしていません。少数の事例ですが、3倍のリスクとも言えます。)

4) 論者は、DOACはワーファリンやプラビックスに比べて安全であると述べています。
   但し事前のリスク評価が大事だとしています。つまりCHADSスコアー、CCI(患者の合併症などの
   評価)、EMRの適否などです。
   結果は下記のPDFのグラグをご参照ください。





私見)
 本論文の結論として、DOACはワーファリンやプラビックスと比較すると安全との事ですが、当たり前
 ですがコントロール群と比較するとややリスクが増加します。
 職員にアルゴリズムを作成して貰い以前にブログしましたが、職員と相談して若干の修正(例えば
 DOACは当日服用中止して、注意深く生検するのならOKとか)を試みたいと思っています。
 以前のアルゴリズムを下記に掲載します。



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DOACとポリぺく.pdf

doac polypectomy 雑誌.pdf

本院の内視鏡と抗血栓薬.pdf














posted by 斎賀一 at 21:40| Comment(0) | 消化器・PPI