2018年12月30日

妊娠と糖尿病

妊娠と糖尿病
 
Standards of Medical Care in Diabetes 2019



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 アメリカの学会ADAより2019年の糖尿病ガイドラインが出ました。
 (2018年版とほぼ同じですが異なる点もあり、後日纏めてみたいと思います。)
取り敢えずチャプター14の妊娠編を纏めてみました。
序論として妊娠と糖尿病についても勉強しましたので、まずそれから記載します。


序論  「今日の臨床サポート」参照

 妊婦の糖代謝異常は「妊娠糖尿病」「妊娠中の明らかな糖尿病」「糖尿病合併妊娠」 に分類される。
 ・「妊娠糖尿病」とは、妊娠中にはじめて発見または発症した糖代謝異常であるが、糖尿病に至って
  いない場合である。
 ・「妊娠中の明らかな糖尿病」に関しての診断基準も、下記のPDFをご参照ください。
 ・「糖尿病合併妊娠」とは、以下のいずれかに該当する場合である。
  妊娠前に既に診断されている糖尿病
  確実な糖尿病網膜症があるもの
  妊婦のスクリーニングに関しても今臨サより拝借し、下記にPDF化してありますのでご参照ください。


本論;ADAガイドラインより

1) 妊娠前に女性は専門家のコンサルトを受け、A1cが6.5以下を目標にコントロールしておくべきで
   ある。

2) 妊娠中は赤血球の寿命(turn over)が短いので、A1cは低めに測定される。
   よって低血糖の心配がなければA1cは6.0を目標にするが、低血糖の懸念がある場合は7.0以下と
   する。
   また正常の糖代謝を有する妊婦においては、胎児や胎盤の糖吸収のために非妊娠時と比べて
   空腹時血糖は低いが、逆に食後血糖は胎盤からのホルモン(diabetogenic placenta
   hormones)により、血糖が高めになる。

3) インスリンの生理的変化
   T型糖尿病では、妊娠初期にインスリン感受性が高く血糖は低めで、インスリンの必要量も低下
   する。
   しかし妊娠中期、後期になるとインスリン抵抗性が増加傾向に変化してインスリンの必要量も増すが
   後期の最後には横ばいとなる。
   正常の妊婦では、インスリンの分泌が十分なためインスリン抵抗性に対応できるが、妊娠糖尿病や
   糖尿病合併妊娠では、適切な治療をしないと高血糖になる。

4) T型及びU型ともに下記の目標
   空腹時血糖 : 95mg以下、食後1時間血糖 : 140mg以下、食後2時間血糖 : 120mg以下  
   勿論、低血糖には注意が必要で、目標値は個々人で異なる。

5) インスリンは胎盤を通過しないので、治療の第一選択である。
   メトグルコとサルファニール尿素系は胎盤を通過するので、第一選択にはなれない。

6) 妊娠糖尿病は妊娠初期からのダイエット、身体活動、ライフスタイルの改善で予防できる。
   ある研究では、妊娠糖尿病の70~85%がライフスタイルだけの改善でコントロール出来るとして
   います。

7) 全ての妊婦は最低175gの炭水化物、最低71gの蛋白質、最低28gの線維の摂取を勧めています。

8) T型及びU型糖尿病のインスリン療法
   妊娠の極初期にはインスリンの必要量が増加するが、9週以降は減少してくる。
   やがて16週以降はインスリン抵抗性の傾向となり、5%/週のインスリンの増加が必要になる。
   妊娠後期ではおよそインスリンの倍量が必要になる。
   一般的には基礎インスリンは50%以下で、追加インスリン(食後)50%以上の割合とする。
   妊娠後期では、インスリン必要量は横ばいとなるか減少の傾向である。
   ヒトインスリンは何れも胎盤を通過しない。

9) T型糖尿病
   妊娠初期に低血糖の頻度が増す。しかも低血糖の症状は様々で、見逃されることがある。
   妊娠そのものがケトアシドーシスになり易いし、網膜症の危険も増加する。

10)U型糖尿病
   出産後は劇的にインスリンの必要量が低下するので、注意が必要

11)血圧管理
   目標は120~160/80~105
    拡張期血圧が100と85を比較した研究があるが、転帰に関しては差が無かった。
   降圧薬はアルドメット、アダラート、ヘルベッサーなど
   ACE-IやARBは禁忌。降圧利尿薬も母体の循環血液量の不安定に繋がるため、長期の使用は
   控える。

12)妊娠糖尿病の出産後について
   出産後4〜12週にかけて75g糖負荷試験を実施
   赤血球の寿命が短かく(turn over)、出産による出血のためA1cよりも糖負荷試験を推奨
   次の出産に際してU型糖尿病を発症する事が多く、事前に充分な検査が必要
   15~25年後に糖尿病発生は50~70%と言われている。よって1~3年おきに糖尿病の検査が
   必要
   出産後の肥満が危険因子である。よって妊娠糖尿病の場合は、出産後の積極的なライフスタイル
   改善の介入が大事





私見)
 妊娠による糖代謝の変化は日々刻々と変化し、予測が難しいようです。
 慎重な定期的な検査を、妊娠中及び出産後も実施する事が肝要です。


私の以前のブログ(2018-4-2) : 「妊娠と糖尿病治療薬」 も併せてご参照ください。
ヘモグロビンA1cに関しても下記のPDFを参照ください。



 ◆ 参考書籍  糖尿病診療ハンドブック : 中外医学社





妊娠と糖代謝.pdf

A1c.pdf

Care in Diabetesd2019.pdf

以前のブログより.pdf
















posted by 斎賀一 at 18:46| Comment(1) | 糖尿病

2018年12月28日

亀田病院は今回ゾフルーザを見合わせる

亀田病院は今回ゾフルーザを見合わせる
           <ツイッター版>



 色々なネットで、亀田総合病院が今シーズンのインフルエンザに新規インフルエンザ薬のゾフルーザを見合わせたとの掲載があり、注目されています。

 日経メディカルに、感染症科部長の細川直登氏の見解が載っていましたので下記に掲載します。
説得力のある内容ですが、一点だけ私の無理解かもしれませんが異なる点がありました。
ゾフルーザ投与後のアミノ酸変異はタミフルの耐性化と異なり、その後のゾフルーザの耐性化には繋がらないと理解していました。
 現時点では本院でもゾフルーザを処方していますが、効果はかなりありそうですし、タミフルにおける
嘔気もなく、薬価を抜きにしますとかなり有力な薬剤だと思っています。
そうは言っても天下の亀田の感染症科の見解ですし、十分に症例を選ばなくてはならないと思いました。





ゾフルーザ 亀田病院.pdf














posted by 斎賀一 at 18:51| Comment(1) | インフルエンザ

2018年12月26日

インフルエンザの新薬・ゾフルーザ

インフルエンザの新薬・ゾフルーザ

Clinical Practice Guidelines by the Infectious
Diseases Society of America: 2018 Update on Diagnosis,
Treatment,Chemoprophylaxis, and Institutional Outbreak
Management of Seasonal Influenza



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 今シーズンのインフルエンザも流行期となっています。
現在は殆どがA型インフルエンザウイルスですが、稀にB型も発生しています。
各年度により流行のウイルスは違いますので、当然抗インフルエンザ薬の効果も若干異なる印象が
あります。

 新薬のゾフルーザは実験段階ですが、ウイルスの型に関係なく効果があるようです。
IDSAのガイドラインからゾフルーザの部分を抜粋して纏めてみました。
 (PDFの本論文で目次を添付しましたので開いてみてください。)
現段階では、本院も成人で発症2日以内の早期の場合は、ゾフルーザは有効な選択肢と考えています。
特にB型インフルエンザの場合は考慮すべきかもしれません。
私の以前のブログから “ゾフルーザ” で検索してみてください。


1) ゾフルーザはコントロールと比較して26.5時間症状を軽減する。

2) タミフルとの臨床効果において差はあまり無いが、副作用に関してはコントロールと比較しても
   差は無く忍容性はある。

3) ウイルスの呼吸器組織での存在期間は、明らかにタミフルよりゾフルーザの方が短い。
  (ゾフルーザが24時間、タミフルが72時間、つまり2次感染に関してはゾフルーザの方が予防できる。)

4) 症状が長引いた人や治療後5日以上でウイルスが同定された場合は、ゾフルーザに対するウイルス
   の抵抗性が10%程証明された。

5) B型インフルエンザウイルスに対しては、明らかにゾフルーザの方がタミフルより有効であった。

6) 以上の結果は、ガイドライン作成後に発表になっている。



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           Healioより






Seasonal Influenzaa.pdf










posted by 斎賀一 at 19:59| Comment(2) | インフルエンザ