2025年03月21日

産後の子癇前症および高血圧性疾患の管理

産後の子癇前症および高血圧性疾患の管理

Management of Postpartum Preeclampsia and Hypertensive Disorders



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 産後の血圧を厳格に管理することが、合併症のリスクを減らし患者の転帰を改善するか
どうかは不明でした。
アメリカでは子癇前症の発症が全妊娠の3〜6%もあり、その中で5〜12%は産後の高血圧障害
で病院を受診しています。産後の血圧管理がその後の人生で心血管疾患の予防に繋がる事は、
十分に推測できます。
アメリカの産婦人科学会のガイドラインでは、150/100を治療のターゲットにしています。
しかしAHAは、血圧全般に対し130/80を目標に掲げています。
出産後の母体の死亡の60%が高血圧関連です。産後の高血圧は殆どが出産後4〜6日です。
4〜6週で、妊娠前の血圧に回復します。
しかし、産後の血圧を自己測定すると、80%以上の人が高血圧状態を維持していました。

本論文では収縮期血圧130/80mmHg未満を目標とした厳格な降圧治療が、産後高血圧患者の
救急外来受診を減少させるかを検討しています。


1)18歳以上の産後高血圧患者を2023年3月〜2024年3月にかけて前向きコホートで募集し、
  遠隔血圧モニタリングを用いて、血圧<130/80mmHgを維持する治療を行ないました。
  一方で、2021年2月から2023年2月までに血圧<150/100mmHgを維持するための治療を
  受けたレトロスペクティブコホートと比較されました。
  最終的には276人と429人の患者が、それぞれ前向きコーホート研究の厳格群と、レトロ
  スペクティブグループ(従来の管理)のコントロール群に残りました。
  厳格群 (130/80mmHg未満)は、遠隔血圧モニタリングを用いた厳格な血圧管理、
  コントロール群 (150/100mmHg未満)は、 過去の標準的な治療を受けた患者です。
  主要アウトカムは、高血圧性疾患による救急外来受診としています。

2)結果
  厳格群 (n=276) とコントロール群 (n=429) を比較しますと、
  高血圧性疾患による救急外来受診率は、厳格群が3.6% (10名)で、コントロール群が
  8.4% (36名)でした。リスク差は-4.8%でした。
  産後6週間の血圧は、厳格群の収縮期血圧が4.4 mmHg低下 、拡張期血圧が3.1 mmHg
  低下です。


結論)
  血圧管理が厳格なほど、救急外来受診や産後合併症のリスクが減少しました。 

(補足説明;
 子癇前症は、妊娠20週以降に発症する高血圧と臓器障害が特徴です。
 症状は多彩で、蛋白尿、肝腎機能障害、血小板減少、胎児発育不全(FGR)などがみられ
 ます。
 子癇は、子癇前症が進行して、けいれん発作(強直間代発作)が出現した状態を指します。
 産褥子癇は出産後48時間以内に発症することが多いですが、まれに出産後7日〜数週間
 以内に発症することもあります。
 妊娠中毒症という言葉は過去の用語で、現在は妊娠高血圧症候群(HDP)が正式名称です。
 HDP(Hypertensive Disorders of Pregnancy)には、以下の病態が含まれます。
 妊娠高血圧(Gestational Hypertension):高血圧のみで蛋白尿なし
 子癇前症(Preeclampsia):高血圧+蛋白尿
 子癇(Eclampsia):子癇前症に痙攣を伴う
 慢性高血圧合併妊娠:妊娠前から高血圧がある
 慢性高血圧合併子癇前症:慢性高血圧に子癇前症を合併)







私見)
 妊娠中並びに産後の血圧管理と尿検査は必須の様です。







本論文.pdf

妊娠と高血圧症.pdf

妊娠高血圧症候群.pdf

妊娠中の軽度慢性高血圧の治療.pdf









posted by 斎賀一 at 19:57| 婦人科

2025年03月18日

急性冠症候群(ACS)の管理に関するガイドライン・2025

急性冠症候群(ACS)の管理に関するガイドライン・2025
 
2025 ACC/AHA/ACEP/NAEMSP/SCAI Guideline for the Management
Of Patients With Acute Coronary Syndromes
   
<院内勉強用>


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1)急性冠症候群は不安定狭心症、NSTEMI、STEMIを合わせていますが、今回のガイドライン
  では基本的に包括的に記載しています。




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 (心筋壊死はNSTEMIとSTEMIの両者ともに認められますが、NSTEMIは冠動脈の部分閉塞で
  心内膜の梗塞が推定され心電図ではSTの低下を認めますが、STEMIでは完全閉塞でSTの
  上昇を呈します。
  不安定狭心症では心筋壊死はないので、マーカーの上昇はありません。)


2)ACS発症時のリスクの評価が有効との事です。




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 *補足説明
  Killip分類、TIMIスコア、GRACEスコアを活用する事を推奨しています。
  ・Killip分類は急性心筋梗塞の心不全の重症度を4段階にスコア化しています。
   TIMIスコアやGRACEスコアに含まれ、予後予測に使用されます。

   Killip I → 特に心不全なし → 標準的な心筋梗塞治療(抗血小板療法・PCIなど)
   Killip II → 軽度の心不全 → 酸素投与、利尿薬、血管拡張薬(硝酸薬)などを考慮
   Killip III → 重度の心不全(肺水腫)→人工呼吸管理や強心薬(ドブタミン)などが必要
   Killip IV → 心原性ショック → 緊急PCI、補助循環(IABP/ECMO)昇圧薬の投与が必要

  ・TIMIスコアはACS患者の短期的なリスク(心筋梗塞、死亡、または緊急血行再建の
   リスク)を予測するためのシステムで、以下の2つがあります。
   @TIMIスコア(不安定狭心症/NSTEMI)14日以内の死亡、心筋梗塞、または緊急血行
    再建のリスクを評価する。



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    ATIMIスコア(STEMI)30日以内の死亡リスクを予測する。


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  ・GRACEスコアは、急性冠症候群(ACS)の患者の短期および長期の死亡リスクを評価する
   スコアで、より詳細なリスク評価が可能です。
   計算式は、下記にアクセスしてください。

   https://www.mdcalc.com/calc/1099/grace-acs-risk-mortality-calculator


3)症状が出現したら、10分以内に出来るだけ早く心電図をとるべきです。
  もしも症状が継続するなら心電図を繰り返し、所見を比較する事が大事です。
  心電図に所見が認められない場合は、トロポニンテストを優先します。
  陰性でも1〜2時間後、3〜6時間後と経過観察し、増加傾向を確認すべきです。


4)トップメッセージとして
  ・二重抗血小板療法(DAPT)は、急性冠症候群(ACS)の患者に推奨されます。
   経皮的動脈インターベンション(PCI)を受けているACS患者では、エフィエントまたは
   ブリリンタがクロピドグレルよりも優先して推奨されます。


5)SpO₂が90以下の場合は、酸素療法をすべきです。
  90以上では経過をみます。

6)鎮痛
  血圧が90以上あれば、ニトロペンを使用しても良いです。



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7)アスピリンの負荷用量:経口で162〜325 mgを投与。
  可能であれば非腸溶性アスピリンを噛んで服用することで、抗血小板作用の発現を早める。
  すでにアスピリン療法を受けている患者にも、負荷用量を投与するべきです。

  維持用量:75〜100 mgを経口で毎日投与(非腸溶性アスピリン)
  【補足説明;バファリン81mg(非腸溶性)、バイアスピリンは腸溶性】



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8)ACSの患者は初期loadingのアスピリンを始めたら、その後も低用量のアスピリンを継続する
  必要があります。 
  アスピリンにP2Y12(プラビックス、エフィエント、ブリリンタ)を追加すべきです。
  一過性脳虚血発作や脳卒中の既往がある患者には、エフィエントは追加すべきでありま
  せん。
  PCIを受けたNSTE患者は、エフィエント、ブリリンタを処方されることを推奨。
  PCIの予定のないNSTE患者はエフィエントを推奨。
  STEMI患者で緊急PCIを受ける患者は術後管理として、抗血小板療法(DAPT:アスピリン
  +エフィエントまたはブリリンタ)を推奨する。プラビックスでもよい。


9)脂質管理
 主要心血管イベント(MACE)のリスクを低減するため、高強度のスタチン療法を使用する。
 最大耐用量のスタチン療法を受けており、LDLコレステロール(LDL-C)が70 mg/dL以上の
 患者には、非スタチン系の脂質低下薬を追加する。
 指定された非スタチン薬:エゼチミブ、エボロクマブ、アリロクマブ、インクリシラン、
             ベンペド酸

 スタチン不耐症の患者には、非スタチン系の脂質低下療法を使用し、LDL-Cを低下させる。
 最大耐用量のスタチン療法を受けており、LDL-Cが55〜69 mg/dLの患者には、非スタチン系
 の脂質低下薬の追加を検討する。
 ゼチーアの併用療法を、最大耐用量のスタチン療法と同時に開始することも検討できる。
 脂質低下療法の開始後または用量調整後、4〜8週間後に空腹時脂質を測定し、治療反応やアド
 ヒアランスを評価する。


10)βブロッカー
  禁忌でなければ、発症後24時間以内にβブロッカーを推奨する。
  再梗塞と心室性不整脈の予防のため。


11)ARBとACE-i
  ACSの患者で心駆出率が40%以下、高血圧、糖尿病があれば、ARB又はACE-iを推奨する。


12)二次予防のための長期管理について
  退院後の12か月の規定期間(default duration)では、出血のリスクが低い患者にはアスピ
  リンとP2Y12の併用(DAPT)を、少なくとも1年間続けることを推奨する。
  出血のリスクを軽減するために、PCI後1か月が経過したらブリリンタ単独でもよい。
  出血のリスクが高い場合は、DAPTにPPIを併用する事を推奨する。 
  PCI後1か月が経過したらDAPTを漸減してプラビックス単独にすると、出血のリスクを軽減
  できる。
  PCI後1か月が経過したらDAPTの中の一つ(例えばアスピリン単独かP2Y12単独)にすれば
  出血のリスクは軽減できる。
  ACS患者が抗凝固薬の併用(triple)をする場合は、1〜4週間の経過観察後にアスピリンを
  休薬し、プラビックスと抗凝固薬の併用が出血のリスクの軽減となる。


13)ACS患者のMACEの予防に、低用量のコルヒチンは有効である。


14)SGLT-2に関して
 (本論文ではある程度推奨しているようです。)







私見)
 脂質管理には、本論文のACCと以前のブログでも紹介しましたAACEとでは見解が異なります。
 私は流れるままに、気が付いたら消化器内科をしています。
 学生時代から内科の本流は、循環器のドクターです。
 判官ひいきの私は、取り敢えずAECC方式とします。








本論文.pdf

成人における脂質異常症の薬剤管理のガイドライン.pdf














posted by 斎賀一 at 20:22| 循環器

2025年03月15日

出血性結腸憩室炎の長期予後

出血性結腸憩室炎の長期予後
 <短 報>
Long-Term Natural History of Presumptive Diverticular Hemorrhage



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 直近で出血性結腸憩室炎の患者さんが来院しましたのでブログします。
急性出血性結腸憩室炎の再発のリスクが懸念されていますが、その実態は明白でありません
でした。その頻度は報告により差があります。
原因の多くは、診断が疑い(presumptive)のためです。
つまり、下部消化器からの出血原因が他にない場合の除外診断(default diagnosis)だからです。


1)アメリカからの報告です。
  1994〜2024年間の重篤な下血にて、急性出血性結腸憩室炎の疑いと診断された139人の
  前向きデータを用いた、後ろ向きコホート研究です。
  (データ自体は「前向きに収集」されたが、それを用いた解析は「後ろ向き」という形
   になります。)
  肛門鏡検査、小腸内視鏡、カプセル内視鏡、CT血管造影、標識赤血球スキャンなどで
  他の出血原因が除外されています。 
  男性104人で女性35人、年齢は76歳です。

2)長期追跡 (中央値73ヶ月) の間に、24.5% (34/139) の患者が再出血をしています。
  再出血した患者の56% (19/34) は、確定の急性出血性結腸憩室炎と診断されました。
  追跡期間中に再出血患者では、新たな高血圧または動脈硬化性心血管疾患の発症率が
  有意に高かった。
  全死亡率は42.8%でしたが、急性出血性結腸憩室炎による死亡かは確認されていません。

3)考察
  ・疑診TICH患者の75.5%は再出血せず、24.5%は再出血した。
  ・再出血患者の56%は、確定診断に移行した。
  ・新規発症の高血圧および動脈硬化性心血管疾患は、再出血のリスク因子であった。 





私見)
  J・Wのコメントでは、症例数が少ないが傾向を把握するには十分な内容としています。
  心血管系のリスク軽減が重要となります。








Long-Term Natural History of Presumptive Diverticular Hemorrhage.pdf













posted by 斎賀一 at 16:08| 消化器・PPI