百日咳
Pertussis − Not Just for Kids
[n engl j med 352;12 www.nejm.org march 24, 2005]
[n engl j med 352;12 www.nejm.org march 24, 2005]
日本でも百日咳が流行しているとの報道で、皆さんが心配されています。
2005年の古い文献ですが、さすがNEJMの総説です。現在も色褪せていないので、改めて
ブログします。
1)小児における百日咳の予防接種率が80%以上であるにもかかわらず、米国では報告される
百日咳の症例数が1980年以降6倍に増加しています。
(2005年の時点の論文)
この病気は、より穏やかな「カタル期(catarrhal phase)」から始まります。
この時期は鼻かぜ症状(鼻汁)、結膜炎、そして時に軽い咳など、非特異的な症状が見られ
ますが、これらは百日咳を疑わせるものではありません。
7〜10日ほどすると特徴的な咳が始まり、「発作期(paroxysmal phase)」の始まりを示し
ます。この咳は数週間続き、その後咳の強さや頻度が徐々に軽快し、次の「回復期
(convalescent phase)」に移行しますが、他の上気道感染症などをきっかけに、再び
激しい咳が出現することがあります。
この回復期は、数週間から数か月続く事もあります。
乳児では、咳がみられずに無呼吸やチアノーゼで発症することがあり、死亡や重篤な合併症
(肺炎、気胸、重症肺高血圧、けいれん、脳症など)のリスクが高くなります。
2)予防接種を受けた患者、特に思春期や成人では、持続性の咳だけが百日咳の唯一の症状でも
あります。
確定診断された成人百日咳患者の約80%は3週間以上続く咳を有し、27%は90日後でも咳が
残存していたと報告されています。
他の多くの呼吸器感染症の病原体は潜伏期間が短いのに対して、B.pertussisは潜伏期間が
数日〜数週間と長いです。
3)血清学的検査(Serologic Testing)
思春期・成人では発症から時間が経過して受診することが多く病原体検出が難しいため、
血清抗体検査が有用となります。
急性期(発症から1週間以内)と回復期(4〜6週間後)の抗体価の上昇を確認する方法が
あります。
もしくは、発症から3週間以降に採取した単回血清において、抗PT(百日咳毒素)IgG抗体価
が診断閾値を超えていれば診断が可能です。
4)治療が早期(発症から1週以内)に行われた場合、症状の期間や重症度が軽減される可能性が
あります。ただし、症状が出て1週間以上経過した後の治療では、臨床経過に与える影響は
限定的です。
思春期や成人では、症状が出てからすでに1週間以上経過している「発作期(paroxysmal
phase)」に受診することが多く、この段階では抗菌薬による症状の軽減効果はほとんどあり
ません。
以下のようなハイリスク者またはその接触者には、発症から6〜8週経過していても治療が
推奨されます。
・乳児・ 妊娠後期の女性(出産後も感染源となる可能性あり)・医療従事者
また以下の薬剤や治療法は、症状の軽減や咳のコントロールに有効であることは示されて
いません。
・ステロイド(副腎皮質ステロイド)・サルブタモール(気管支拡張薬)・ジフェンヒド
ラミン(抗ヒスタミン薬)・百日咳免疫グロブリン(免疫療法)
4)百日咳の感染力は発症から時間が経つにつれて低下するため、予防投与は発症後3週間以内
に接触があった場合に限定して行うのが一般的です。
5)幼少期のワクチンによって得られる免疫は、時間とともに減弱することが明らかになって
います。そのため、思春期および成人に対するブースター接種(追加接種)の必要性が提案
されています。
妊婦への接種(将来的な戦略)に関しては、乳児がワクチン接種を受けられる前に間接的に
守る方法として、妊婦へのワクチン接種が提案されています。
これは百日咳抗体が胎盤を通じて移行するため、出産直後の乳児を受動的に守ることが
できるからです。
ただし、妊婦へのワクチン接種の有効性や安全性についてのエビデンスはまだ不十分であり、
今後の研究が必要です。
現在の医療環境の確認のため、「今日の臨床サポート」から纏めてみました。
百日咳とは、百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性感染症で、長期にわたる激しい咳
発作が特徴的な疾患である。
なお、ワクチンは10年程度しか効果が続かないことがわかっており近年、思春期、成人期
以降の発症が目立ってきている。
しかし多くは症状が非特異的であることが多く、診断は困難である。
長期に続く咳を診たら鑑別に挙げることが必要である。
百日咳はヒト-ヒト感染で、感染者の気道粘膜の分泌物による飛沫感染の形式をとる。
感染後、通常7〜10日の潜伏期間を経て1〜2週間の非特異的な上気道感染症状が主体のカタル
期、特徴的な発作性の咳こみ、吸気性笛声(whoop)、咳き込み後の嘔吐(post-tussive
emesis)が出現し2〜3カ月持続する発作期、それらの症状が1〜2週に亘って次第に軽快して
いく回復期を経て治癒する。
全体的な経過としては、3カ月程度となることが多い。
小児期とは異なり、青年、成人期では致死的となることはない。
喘息、喫煙が重症化に影響を与える。
基本的には免疫のないものは感染する可能性がある。
ワクチンは10年程度しか効果が続かないことがわかっている。
百日咳は、ワクチン開発前は10歳未満の小児の疾患であったが、ワクチン導入後は米国の統計
によると、患者の半数以上は青年期、成人期であり、青年期、成人の疾患に年齢層が移行して
いる。日本国内も思春期、成人の発症が増えている。
伝染性はカタル期と発作期のはじめを合わせた、トータルほぼ2週間が最も強い。
その後伝染力は低下し、3週間以内にほぼ伝染性はなくなるとされている。
百日咳は感染症法の5類感染症に分類されている。
青年・成人での感染がみられることから、2018年1月からは年齢にかかわらず全例、診断から
7日以内に最寄りの保健所に届け出ることとなった。
また、学校保健安全法で第2種感染症に指定されており、「特有の咳が消失するまで、または
五日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで」を出席停止の期間の基準としている。
分子生物学的診断方法として、鼻咽頭の核酸増幅検査(PCRやLAMP法)があり、感度は培養
よりもよく抗菌薬使用初期であれば影響は少ない。
ただし遺伝子を検出するため死菌、コンタミネーションの可能性がある。
検査室によって感度・特異度にばらつきがあることがわかっている。
また感度がよすぎて、アウトブレイクの際に一過性に菌が存在しただけで拾ってしまう可能性
も示唆される。
CDCは培養とともにPCRを提出することを推奨している。
血清学的診断は、従来よりよく行われてきた方法である。国内では東浜株、山口株による凝集
素価測定が行われてきたが、今は使用されていない。
現在、PT(百日咳毒素)、FHA(線維様血球凝集素)に対するIgG抗体のEIA法による検出が
行えるようになっている。
PT抗体の検出は特異度が高く、最も一般的な血清診断法とされている。
FHA抗体の検出は他のBordetella属でも反応が起き、他の微生物(Hemophilusinfl uenzaeや
Mycoplasma pneumoniae)でも交差反応があるとされ、診断的意義は劣る。
通常青年期、成人の百日咳は重症化することは少ない。
従来カタル期に抗菌薬を投与したときだけ、症状の軽減と期間の短縮が期待できるとされて
いたが、その後に投与した場合でも症状が軽減した報告があり、現在CDCは発症3週間以内
までは抗菌薬を投与してよいとしている。
また妊婦や乳児では、発症6週間以内は治療を行うことを検討するのが適切としている。
検査にかかる時間を考慮して、検体提出と同時にエンピリックに開始するよう勧めている。
百日咳患者は、幼児、特に乳児で予防接種を行っていない者との接触は避けなければならない。
患者は、5日間適切な抗菌薬を内服すれば伝染性がなくなるとされ、隔離は解除となる。
百日咳疑いの患者で抗菌薬を内服しない場合、発作性の咳が始まって3週間経過するか、発作
性の咳が治まるまでのどちらか短い期間隔離しなくてはならない。
マクロライド系抗菌薬、ST合剤以外で臨床上効果が示された抗菌薬はない。
百日咳の予防にはワクチンが有効である。
三種混合として小児期に接種することは必須であり、思春期、成人に対して予防、感染拡大
目的に追加接種が推奨される。
現在日本でも使用されているジフテリア・(無菌体)百日咳・破傷風混合ワクチンは、システマ
ティックレビューにおいて3回以上の接種により84〜85%の予防効果があり、それ以下の場合
では59〜75%の効果があった。
3回以上の接種では、すべてではないが菌全体のワクチンよりも効果があったとされる。
10年ほどで百日咳ワクチンの抗体価が低下してくることから、感染拡大のためには思春期、
成人に対して追加ワクチン接種が望ましい。
ただし、曝露後に予防接種を行うことには効果がない。
一方日本では、2016年に三種混合ワクチン(製品名トリビック)が成人への適応を取得し、
成人の追加接種にも使用可能になった。
10年ほどで百日咳ワクチンの抗体価が低下してくることから、感染拡大のためには思春期、
成人に対して追加ワクチン接種が望ましい。
ワクチン接種に関する諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices、
ACIP)では、11〜18歳の間に成人用ワクチンの追加接種を、19歳以上の成人には1回追加
接種が望ましいとしている。
なお曝露後に予防接種を行うこと、免疫グロブリンを使用することは効果がない。
濃厚接触者は接触してから21日以内、咳嗽が出るまでの間に曝露後予防を行うことで、発症を
予防できるかもしれないと考えられている
濃厚接触者は有症状者と3フィート(約91cm)以内の距離で顔と顔を突き合わせる状況に
なった場合と定義される。
曝露後、予防開始については慢性肺疾患、免疫不全の患者では積極的に行ったほうがよい。
わが国では学校保健安全法で第2種感染症に指定されており、隔離基準として「特有な咳が消失
するまで、または五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」出席停止として
いる。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認められたときは
この限りではない、とされている。
また、感染症法の5類感染症に分類され、青年・成人での感染がみられることから、2018年1月
からは年齢にかかわらず全例、診断から7日以内に最寄りの保健所に届け出ることとなった。
私見)
次回、三種混合ワクチンについて、本院での見解を含めブログします。
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